リケルメとサビオラの明暗。

鈴井智彦 = 文 ⇒この著者の記事一覧

text by Tomohiko Suzui

photograph by Tomohiko Suzui

リケルメとサビオラの明暗。

 笑顔でボカに帰ったのも、すべては母親のだめだった。たぶん、リケルメはもう、ビジャレアルには戻らないだろう。人は彼のことをニヒリストと呼ぶ。ニヒリズム。虚無主義。

 バルセロナ、ビジャレアル、アルゼンチン代表とヨーロッパで過ごした日々に絶望し、疲れきってしまったというのである。もう、誰も信じられない。心を許せるのは、家族だけだと。

 ビジャレアルで何があったのか?リケルメはブエノスアイレスで、今まで沈黙を保っていたビジャレアルとの確執に触れた。

 「こじれたのは役員との問題であり、技術的なことではない」

 昨年末、フェルナンド・ロイグ会長に冬休みの延長を直談判したことからリケルメの居場所がなくなった。いつしかペジェグリーノ監督との会話もいっさいなくなる。指揮官は言った。

 「選手には私をリスペクトすることを求めますし、約束も守ってもらいたい。それらが果たせなければ、招集外とさせてもらう」

 ちょっとしたお灸かと思っていた。だが、リストから外れ、観客席から試合を見守るリケルメがピッチに戻ってくることはなかった。リケルメのなかで何かが崩れた。フットボールよりも何よりも、ママが心配だった……。

 母親の健康状態が良くないことは一番の気がかりだった。ドイツW杯で非難を浴びる息子を見かねて、「もう、アルゼンチン代表のユニホームは着ないで」という母親の涙に、彼の心は揺れた。

 「すぐさま決断したよ。ワールドカップが終わってから、母は2度も病院に運ばれた。悩むことなどなかった。可能なかぎり母を看病し、彼女の支えになることがボクの責任だ」

 冬休みの延長もママのそばに少しでもいたかったから。でも、舌足らずなリケルメのことだ、ロイグ会長やペジェグリーノ監督にしっかり説明できたのかどうか。もしかすると、リケルメの心は開幕前からブエノスアイレスにあって、そのことで頭が一杯だったのかもしれない。

 昨年の10月にも「特別休暇」をもらってアルゼンチンに帰国、「弟が誘拐された」のも昨年のことだ。チャンピオンズ・リーグ決勝への道を閉ざした終了間際のPK失敗も、きっとリケルメをニヒルな男にしてしまったひとつだろう。

 バルサのサビオラも一時はニヒリズムに陥る可能性があった。でも、今は立派にチームに貢献している。彼らふたりは対照的だった。ほんの少しでも、リケルメはサビオラから学ぶべきだった、という声もある。

 レンタル移籍から戻ってきたサビオラは、こう宣言している。

 「ボクがもらったオファーにはバルサよりも高額な条件を提示してきたクラブがいくつかあった。でも、僕はここに残ると決めた。バルサでフットボールがしたい。お金じゃないんだ」

 前会長の遺産を嫌ったラポルタ会長は、選手、役員、コーチらのクビをことごとく切ってきたのは有名な話で、サビオラも例外ではなかった。モナコ、セビージャへとレンタルの旅に出された経緯がある。それにアタッカーは足りていたから、ライカールト監督の構想からも外れていた。だから残留しても、放出は時間の問題かと思われた。

 しかし、バルサを選んだサビオラは不可能を可能にしたといってもいいほど、自身の環境を変えたのである。

 2軍の試合でも、サビオラは招集されると奮起した。まったく腐らなかった。それがいまでは、何試合かはバルサのスタメンを獲得している。2月に行われたフランスとの親善試合では再びアルゼンチン代表に招集され、決勝弾となるゴールも決めた。

 リケルメとサビオラ。ボカとリーベル。バルサでともに過ごした1シーズン、彼らの印象は「シャイ」であった。ともに好きな選手には「アイマール」をあげるのも、わからないではない。しかし、ふたりは別々の道を歩もうとしている。人生はほんとに難しい。

■関連コラム► 3人を失ったバルサを救う神。 (06/11/16)
► “恐竜”リケルメは現代を生き抜けるのか。 (06/05/25)


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