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バルサとレアルの運命を決めた思わぬ伏兵。 

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鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2007/06/14 00:00

バルサとレアルの運命を決めた思わぬ伏兵。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 カラタウナス村の村長を誰にするかも、リーグ優勝を決めるのも、なんだか似ている。

 立候補者ふたりが、66票の同ポイントだったアンダルシア地方グラナダのカラタウナス村長選挙。PP(国民党)対PSOE(社労党)の戦いの決着は、なんとコイントスに委ねられたのである。宙に舞った20センティモが出した答えは、裏だった。PPが勝った。新村長決定。

 6月9日のスペインリーグも、まさに運命だった。同ポイントで並ぶバルサとレアル。両者の運命は終盤の数十秒の間に、くるくると変わった。

〈88分 ファン・ニステルローイGOAL! サラゴサ2-2R・マドリー〉

 起死回生の同点弾。しかし、バルサがエスパニョールに勝ってしまえばレアルは首位陥落だ。だからサラゴサの地に駆けつけたマドリーのサポーターたちは、追いついてセンターサークルに戻ってくる選手たちに向かってこう叫んでいた。

 「えすぱにょょょょ〜る、エスパニョール、がぁぁ」

 思いが通じたのだろうか……。

〈89分 ラウール・タムードGOAL! バルサ2-2エスパニョール〉

 「我々には神がついていたんだ」

 レアルのカルデロン会長は叫んだ。

 メッシの2ゴールで逆転に成功したバルサの選手たちは、サラゴサの戦況を把握していただろう。スタジアムの空気を読めば、そのくらいすぐわかる。優勝は俺たちがいただいたな、と。

 しかし、神様のいたずらか。ロスタイムを含めても、残りはたった3分ぐらい。だが、されど3分。バルサは湯を注いだばかりのカップ麺を、すぐ隣りにいた「弟」にさっくりカップごと奪われた。なんという間抜けな話。

 バルサにとってエスパニョールとは弟みたいなもんだ。少年時代にラウール・タムードはバルサのテストに落ちているし、デ・ラ・ペーニャやルフェテはバルサのカンテラ(下部組織)育ちである。多くの選手がバルサに憧れ、やがてエスパニョールのユニホームを着る。

 しかし、兄弟の関係といえど、ふたりの仲は最悪に悪い。おなじ街にあるクラブというだけでなく、エスパニョールは王室からの称号「REAL」を受けているから。正式名称は「レアル・クルブ・デポルティーボ・エスパニョール・デ・バルセロナ」。そう、弟は「レアル派」なのだ。

 だから、エスパニョールのスタジアム、モンジュイックは「第2のホームみたいだ」なんてレアル・マドリーの選手にいわれるくらい、バルセロナ在住の隠れマドリスタたちでスタジアムは白く染まる。

 「カンプ・ノウでの2ゴールは特別。エスパニョールのカラーと紋章にかけても、バルサには勝たなければならなかった。でも、もしボクが手でゴールを決めたら、自分から取り消すけどね」

 試合後、あれがなければダービーを制したのは俺たちだといわんばかりに、ラウール・タムードは明らかに手で決めたメッシをチクリとやった。

 こうしてサラゴサがお湯を注ぎ、バルサが食いつこうとしたカップは目の前から消えた。

 サラゴサのロマレダ・スタジアムに終了のホイッスルが鳴る。

 ロビーニョはピッチを飛び跳ねた。ベッカムもグティも駆けつけ、サポーターにガッツポーズを見せた。カシージャスはユニホームを客席に投げつけてパンツ一丁だ。

 まるで、コイントス。この日のレアルとバルサの運命を決めたのは、20センティモを宙に投げた思わぬ伏兵、ラウール・タムードだった。

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