Column from SpainBACK NUMBER

フットボールにおける男のロマン。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2006/10/13 00:00

フットボールにおける男のロマン。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 男のロマン。なんか懐かしい響き。死語かもしれん。でも、ロマンといってもそれは日活でもリケルメでもありません。純粋に夢や冒険への憧れのこと。その昔は、そんなロマンを感じさせる選手がいた気がする。いや、ちょっと待て。フットボールにおいての「男のロマン」って、なんなんだ?

 「いまやロマンティックなのは、アラゴネスとイルレタと私の3人だけだね」と言ったのは、ハビエル・クレメンテだった。セルビア代表の監督に就任したばかりのバスク人監督は、「ロマン」という言葉をさらりと使いこなす。えっ、アナタがロマン主義というのですか。なんかロマンとはかけ離れているようなイメージがありますが……。

 「私がセルビアに行ったことがそれを証明している。お金や契約が重要なのではなく、ただ単に最高のプロジェクトを完成させることだ」

 それをロマンというのか。なるほど。フットボールのスタイルではなくて、生き様の部分でロマンを追い求めているんすね。

 でも、クレメンテがいうロマンティック3人衆ですが、他のふたりは夢を追うどころじゃない。ハビエル・イルレタ率いるベティスは3連敗(1勝4敗、現在17位)で降格ゾーン寸前。ルイス・アラゴネスが指揮を執って欧州選手権予選を戦うスペイン代表は、北アイルランドに続いてスウェーデンにも、負けた。オーストリア・スイスの地にたどり着けるか、不安。結果がついてこないと、ロマンも何もないわけでして。フットボールとは、ともすれば儚いロマンでもある。

 今、スペインで男のロマンを感じさせる監督といえば、キケ・フローレスかもしれない。現役時代に10シーズン過ごしたバレンシアに、監督として戻ってきて2シーズン目。マドリッド生まれの41歳。キケはスペイン・リーグどころか、チャンピオンズ・リーグ制覇をももくろんでいる。こりゃ、男のロマンだ。

 しかもやり方が興味深い。現役引退後はレアル・マドリーで指導者の道を歩んでいたキケだったが、カペッロが就任した96−97シーズンには「のけ者」にされていた。いわゆる、無視。イジメ。だから、いまのレアルには厳しいコメントも容赦なく飛ばす。「無冠の泥沼」だの「チームより個人優先」だのと。また、ラウール、グティ、カシージャスらがないがしろにされていることも気にかけている。

 だから、キケはバレンシアではレアル・マドリーとは異なる姿勢を貫いてきた。「個人よりチーム優先」、そして「スペイン人重視」だ。

 アタッカーは、ほぼスペイン人が占めている。しかも、ホアキン、シルバ、ビジャ、モリエンテス、アングロらは、スペイン代表クラスだ。そっくりそのまま、ユーロ2008予選に出場させても、いいくらいである。そう、バレンシアの成功は、スペイン人のメンツにもかかわってくる。

 たとえば、レアルがチャンピオンになったとしても、そこにはブラジル人やイタリア人の匂いがぷんぷんする。キケがレアルのユース育ちのスペイン人選手たちをフォローするのも、すべては彼らの方針を批判したいから。カペッロというイタリア人が、外国人を優先して自分を蚊帳の外に放り出したことを、忘れるわけがなかった。アイマールをあっさり手放したのも頷ける。

 さらに、キケの色はグラウンド外にも反映している。プロなら当たり前のことだが、夜の外出禁止令を破った選手に罰金を科したのである。これまでは、暗黙の了解だった。しかし「去年までは曖昧だった規律だけど、ここでしっかりルールを間違わないようにしておきたい」と。ロマンのためにキケは鬼となったわけだ。

 そこで思い出した。ロマンを感じさせる選手が、その昔バレンシアにいた。ルール無用のフットボーラー、ロマーリオ。試合前日というか当日の朝7時までディスコで踊っていても、ハットトリックを決めてしまうストライカーだった。夜遊びについて、試合後にラニエリ監督が怒鳴りつけても、なんてことはない。「夜遊びはオレの友だちだ。プライベートでは好きなようにやらせてもらう」と言い放った。ロマーリオは、バルセロナ時代でもクライフ監督に向かって「夜遊びはやめない。ゴールを決めればいいだろう?」と逆ギレ。しかも、有言実行。得点王。問題児でありながら、いまだに現役、40歳ストライカー。

 男のロマンには、2種類ある。キケのようなマジメ派。ロマーリオのようなヤンチャ派。どちらも、夢を抱かせる。

 ドイツ・ワールドカップでは、ロナウドも朝までディスコで遊んでいたところがばれたひとりだった。ヤンチャ派。ところが、ケガから復帰した最近のロニーくんは、夜の走り込みまでしているという。ヤンチャはすっかりなりを潜めた。でも、考えようによってはこんなのも「男のロマン」というのではないだろうか。ロナウドの汗はディスコからランニングへと変わった。まるで、再起をかけた『ロッキー3』なのだ。

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