レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

優勝への7つの期待と4つの不安。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2004/09/10 00:00

優勝への7つの期待と4つの不安。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 「あの顔ぶれで優勝しないはずがない」と、昨季はよく言われたものだった。サッカーが“顔”(個人技の高さや知名度)でするものなら、オーウェンが加わった“銀河系の戦士”は天下無敵のはずだ。が、幸いにもそうでないから、1年前、「レアル・マドリーは優勝できない」と私は予想した。

しかし、そんな私も今季のレアル・マドリーは優勝候補に挙げる。昨季の転落の要因だった、1.フィジカルコンディションの悪化 2.薄い選手層 3.攻撃に偏り過ぎたチームづくり・戦い方の3点に、改善が見られるからだ。レアル・マドリー優勝への期待と課題のバランスシートを作ってみた。

■ 今季、改善された点、有利な点

1. 厚くなった選手層

昨季は“銀河系の戦士たち”の控えが、いきなりBチームの若手であり、ケイロス前監督はレギュラー陣を酷使せざるを得ず、それが後半の失速を呼んだ。今季はサムエル、ウッドゲート(ともにセンターバック)、セラーデス(ミッドフィルダー)、モリエンテス、オーウェン(ともにフォワード)が加入。カマーチョ監督には、ロナウド⇔モリエンテス、ラウール⇔オーウェン、フィーゴ⇔ベッカム、ベッカム⇔エルゲラ、ベッカム⇔セラーデス、ロベルト・カルロス⇔ラウール・ブラボなど選択肢が増えた。グティ、ソラリとあわせ層の厚さはリーグ1と断言できる。

2.攻守バランスの改善

両センターバックの加入で守備力がアップし、極端な攻撃偏重は解消された。ここで言う「守備力アップ」とは、ウッドゲート、サムエルの個人としての守備技術が(彼らの力が額面どおりとすればだが)、エルゲラとパボンまたはラウール・ブラボのそれを上回ることに加え、戦略・戦術的により守備的なチームにシフトできる、という意味でもある。状況によって、たとえばダブルボランチにエルゲラとセラーデスを据え、ベッカムを右ウイングへ上げるなどの守備固めが今季は可能。失点は大幅に減るだろう。

3.フィジカルコンディションの向上

「練習不足で体調が悪くなった」。ヨーロッパ選手権で散々な出来だったベッカムは、激しさに欠けるレアル・マドリーのトレーニングをこう批判した。ケイロス前監督の練習法はゲーム形式のものが主体で、フィジカルトレーニングが不十分だったと聞く。加えて、移動⇒公開練習⇒格下相手の親善試合⇒夜遊びの連続だったアジアツアーのおかげで、プレシーズンに十分な体作りができなかったという事情もある。この点を反省してか、カマーチョ監督は就任当初から朝と夕方の2回の練習メニューを組むなど、選手の体をいじめ抜いている。チャンピオンズリーグ予備予選のせいで、アジアツアーが短縮されたのも、体力作りには大きなプラスだった。

4.フィーゴとジダンの代表チーム引退

3に関連して。衰えが見え始めていたフィーゴとジダンが、代表チームを引退したのは、レアル・マドリーにとっては朗報。体力、精神力とも温存してタイトル争いに専念できるはずだ。

5.競争原理の導入でモチベーションアップ

レギュラーポジションが保障されていた“銀河系の戦士”には、練習でも試合でも真剣度が足りなかった。昨季の終盤には、集中力の切れた投げやりなプレー(ジダン、フィーゴ、ベッカムの退場劇はその象徴)が目につき、モラルの低下が明らかだった。選手層が厚くなった今季は、レギュラーポジションの獲得に目の色を変える選手も出てくるだろう(減量したロナウドはその好例)。一方、カマーチョ監督は、ホームゲームでも試合前日に合宿させる(昨季までは自宅から当日集合)など、チームの結束強化に努めている。

6.ラウールからオーウェンへのスムーズなリレー

5に関連して。競争原理の導入の一方で、不調が続くラウールをいつ外すのかは微妙な問題だった。レアル・マドリーの象徴であり、数少ないスペイン人選手の一人として民族的な求心力を一身に担うラウールを外すには、誰からも文句が出ない決定的な理由が必要だった。その意味で「負傷」は理想的だった。しかも代役のオーウェンが大活躍、現段階でオーウェン⇒モリエンテス⇒ラウール(不調もしくは負傷中)という明確な序列ができた。ファンとマスコミを巻き込んだ論争に発展する可能性のあったラウール、オーウェン、モリエンテスの併用問題は、カマーチョ采配の的中、オーウェンの素晴らしいデビューのおかげで、とりあえずは火種にならずに済みそうだ。

7.バルセロナ以外の戦力低下

最後に、積極的な補強をしたバルセロナ以外、ライバルになりそうなチームがいないのも有利な材料だ。バレンシアはベニテス監督が去り、デポルティーボ・デ・ラ・コルーニャは昨季のままの戦力で新シーズンを迎えている。

 以上7つの好材料に対し、不安材料は以下のとおりだ。

■不安材料、改善されていない点

1.ケガ人ウッドゲートの回復具合

「イギリス最高のセンターバック」(ニューカッスル前監督ボビー・ロブソン)と鳴り物入りでレアル・マドリー入りしたジョナサン・ウッドゲートだが、負傷で5カ月間プレーしていない。当初チャンピオンズリーグのバイエル・レバクーゼン戦(9月15日)でデビューと言われたが、回復のペースが思ったより遅く、延期される見込み。レアル・マドリーの医師団は、やはり負傷中だったロナウドの獲得にGOサインを出し、ミリートの獲得を断念させた(ミリートはその後サラゴサへ移籍し、大活躍する)。ビエイラ(アーセナル)を逃がしたフロントが、慌ててウッドゲートに乗り出した経緯があり、獲得に際して果たして十分な検討が行われたか、どうか。

2.守備的ミッドフィルダーの不在

1に関連して。ウッドゲートが期待を裏切らず、エルゲラがボランチで使えるなら、ビエイラ獲得失敗(あるいはマケレレを追い出した昨季の失策)の影響は少ない。が、エルゲラがセンターバックとなると、やはり中盤の底の守備は不安だ。セラーデスは守備のスペシャリストではなく、エルゲラにしてもここ数年はセンターバックで起用されていた選手。ベッカムは、判断のスピードとボールタッチの多彩さに欠け、体を入れたボールキープが苦手だからだ。

3.“銀河系の戦士”たちの高齢化

ジダンが32歳、フィーゴとロベルト・カルロスが31歳と、選手としてのピークは過ぎた。フィーゴとロベルト・カルロスに放出の噂があったのも、その年齢ゆえ。特に代表でもレギュラーのロベルト・カルロスはめったに故障しない選手だったが、昨季は初めてケガが続いた。ラウール・ブラボという控えができたことはプラスだが……。

4.リーダーの不在

“銀河系の戦士”たちはしょせん外様。生え抜きでキャプテンのラウールが本来ならリーダーとなるべきだ。が、彼はリーダーシップをプレーで発揮するタイプであり、昨季のように不調ならキャプテンシーは低下する。クラブ史上最悪のリーグ戦5連敗を止められなかったのは、逆境でチームをまとめる存在がいないため。ソフトなデル・ボスケやケイロスと違い性格が強く親分肌のカマーチョも、グラウンド内ではチームを支え切れない。ラウールの出来次第と言えそうだ。

 以上、好材料と悪材料を並べてみたが、総合的に言って昨季よりもレアル・マドリーが戦力アップしていることは間違いない。優勝を阻む力があるのは、宿命のライバル、バルセロナだけかもしれない。

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