チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER

監督の実力。 

text by

杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byChris McGachy

posted2008/05/09 00:00

監督の実力。<Number Web> photograph by Chris McGachy

 準決勝でバルセロナがマンUに敗れたため、UEFA国別リーグランキングで、イングランドのプレミアリーグが、スペインを抜き堂々、首位に立った。意外に思われるかも知れないが、これは1985年以来23年ぶりの出来事だ。久しぶりであるが故に、大きなニュースである。

 プレミアリーグは、今季からNHKのBSで放送されるようになっている。UEFAランクで首位に立ったシーズンに、タイミング良く始まったわけだ。ヨイショするわけではないけれど、まさに慧眼。優良なコンテンツが、公共放送を通じて、より多くのファンが視聴できるようになったことは、サッカーの普及発展に有意義であることは間違いない。

 そのプレミアリーグは今週末、最終週を迎える。現在、首位に立つのはマンUだが、2位のチェルシーとは同勝点。今季のプレミアは、最終週までもつれ込む希に見る大接戦を繰り広げているわけだが、国内リーグで優勝を争う両者が、同時に欧州一をも争う姿はもっと希な構図になる。

 チャンピオンズリーグ決勝の同国対決は、史上3度目の出来事ながら、99〜00シーズンのスペイン対決(レアル・マドリー対バレンシア)も、02〜03シーズンのイタリア対決(ミラン対ユベントス)も、国内リーグの優勝争いとは無関係だった。

 すなわち「2冠」を懸けた今回の決勝対決は、チャンピオンズリーグ史上初めて起きる特殊なケースになる。

 両チームにとって、理想は2冠達成に違いないが、実際問題として、この2つの冠の間には、エリアの広範さ、威厳と格式、貴重さ等々において著しい開きがある。

 マンUは過去、国内リーグを16回制しているが、チャンピオンズリーグは2度。チェルシーも国内リーグは3度あるが、チャンピオンズリーグはゼロだ。滅多に取れないタイトルはどちらかといえば答えは簡単。

 両者を並列で論じることはできない。まずプレミア優勝ありきではない。プレミアを制してもチャンピオンズリーグを落とせば、少なくともこの2者間では、劣等感を味わうことになる。プレミア優勝はあだ花に終わる。

 今季の戦いぶりを振り返れば、必死さの違いは一目瞭然。両チームともプレミアでは、メンバーを落として戦っている。

 スカパー!のチャンピオンズリーグ中継と、NHKBSのプレミア中継を、両方テレビ観戦している人には、承知済みの話かも知れない。しかし日本は、進歩的といわれているお偉いサンでさえ、Jリーグの試合にベストメンバーを強要する国だ。昨季、ACLを戦った川崎フロンターレが、そんな理不尽とも言える警告を受けたことは記憶に新しい。

 世界のスタンダードが集約されているチャンピオンズリーグは、だからこそ必見になるのだが、本場から遠く離れた我々が、当事者と同じノリで、結果に一喜一憂するわけにはいかない。それでは実利は上がらない。カルチャーギャップは広がるばかりだ。

 チャンピオンズリーグに出場した各チームの監督が、過密日程の中、メンバーをどうやりくりしたかは、そういう意味で大いに参考材料になる。僕が指導者養成コースの校長なら、レポート提出させたくなるテーマだ。最もやりくり上手だったのはどの監督か。

 僕的には、やはりリバプールのベニテスが一番だと思う。

 毎シーズン、終盤になるとリバプールは途端に強そうなチームに見えてくる。先日の準決勝もしかり。チェルシーに延長で敗れたものの、内容的にはほぼ互角。第1戦の戦いぶりと総合すれば、勝っていたといっても良いだろう。

 原因は、使える選手の絶対数が多いからに他ならない。ベニテスはシーズン当初、出遅れ覚悟で、いろんな選手をいろんなポジションで試している。それぞれのポジションの適正と、ユーティリティ性を見極めながら、1シーズン、最後まで戦うための畑をまず耕そうとする。

 その結果、布陣は4−4−2から4−2−3−1へと変化した。4−2−3−1は、4−3−3と4−4−2の中間に位置する布陣だ。よって応用が利きやすい。なにより4−3−3、4−4−2への切り替えがスムーズに行える。02年W杯で韓国代表監督のヒディンクが、右サイドバックを務めていたソ・ジョングを一列高い位置に使い、本来の4−2−3−1を3−3−3−1に変化させた例もある。選手のユーティリティ性を、発揮させやすい布陣といってもいいだろう。

 いまや、選手の使い回しは、チャンピオンズリーグの監督にとって、必要不可欠な術になっている。

 日本のファンには、ACLに出場しているJリーグのクラブと比較してみることをお勧めする。例えば昨季、浦和レッズが国内リーグ終盤に失速した理由はハッキリしていた。監督の選手の使い回しが巧くなかったことに尽きる。

 過密日程は、とかく問題視されがちだ。サッカーの発展を阻害する負の要素として捉えられる風潮がある。しかし欧州には、そうした環境が逆に監督の采配を向上させている現実がある。彼らは、その合理主義、効率主義をサッカーというゲーム競技の中に、巧いこと落とし込んでいる。チャンピオンズリーグ終盤の戦いは、そのアイディアの競い合いといっても過言ではない。

ラファエル・ベニテス
リバプール

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