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遅れてきた期待の新人 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2005/08/05 00:00

遅れてきた期待の新人<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 8月の声を聞き、いよいよシーズンも後半たけなわといったところだ。毎年のように7月31日のトレード期限日までに行われる駆け込みトレードでは、今年は例年のような大物選手に動きはなかった。とはいえ、今後もウェーバーをクリアしさえすればトレードは可能なので(この辺がメジャー規則の難しいところだ)、今回が静かだった分、逆に不気味な気がしないではない。

 ところで、メジャーは9月一杯まで残り2ヶ月を残しているが、1Aから3Aのマイナーはあと1ヶ月しか残っていない。シーズンが早く終了する分、9月1日からメジャーのロースター枠が拡大するため、将来を期待されたマイナー選手たちにメジャーでプレーするチャンスが訪れることになる。

 ジェレッド・ウィーバーという名を記憶されているだろうか。昨年春に、このコラムで紹介したことがある投手だ。ドジャースのジェフ・ウィーバーを兄に持ち、大学時代は向かうところ敵なしの投球を続け、昨年のドラフトの超目玉選手として取り上げていた。そんなウィーバーも、この1ヶ月で成績を残しメジャー初昇格を狙っている選手の1人だ。

 結局昨年のドラフトでエンジェルスが1巡目で指名。ウィーバーの代理人で、辣腕家としてメジャー球界から一目置かれる、スコット・ボラス氏の暗躍(?)が功を奏したのか、エンジェルスより上位指名権を持っていたチームが次々にウィーバー指名を見送り、ウィーバーが望んでいた地元チームにドラフトされた。このままあっさり契約に向かうのかと思いきや、ここから契約交渉は一向に進展しない。年を越して春を迎える頃には、再び2005年のドラフトに再エントリーするのかとまで言われていた。

 ところが交渉期間の最終日となった5月30日に、急転直下の契約合意でエンジェルス入りが発表された。実は、同じボラス氏が代理人を務め、昨年のドラフトの目玉だったステファン・ドリュー(こちらもドジャース、JD・ドリューの弟)も、ロッキーズから指名されながらずっと交渉が進まず、同じく交渉期間ギリギリでロッキーズ入りを決めている。この辺りがボラス氏の恐れられる所以なのだ。

 さて、1年間のブランクがあくことになってしまったウィーバーだが、6月中旬にようやくエンジェルス傘下の1Aランチョ・クカモンガに合流。6月20日にプロ・デビューを飾り、2戦目には3回途中で5安打4失点され敗戦投手になる不安なスタートとなった。

 しかし、ここから昨年の大学ナンバーワン投手だったウィーバーが怪物ぶりを発揮。7月5日に初勝利を飾ると、そのまま破竹の4連勝。この連勝中、 231/3回を投げ奪三振は36個で、防御率もわずか1.52。まったく1Aクラスを相手にせず、滞在期間1ヶ月で7月22日に2Aアーカンソーに昇格を決めてしまった。

 アーカンソーでも登板2試合目で、6回を3安打1失点6三振2四球の好投で勝利投手になるなど、勢いは留まるところをしらない。これまでも3Aを飛び越えて2Aからメジャー昇格するケースも少なくない。現在のような投球を続けていれば、9月にはエンジェルスのユニフォームに袖を通したウィーバーの勇姿が見られると信じている。大学時代の彼の投球を何度か生で見ているだけに、果たしてメジャーの強打者たちにどれだけ通用するのか、楽しみで仕方がない。

 現在、ヤンキースとマイナー契約した野茂投手の取材に回っている。次回には野茂投手の「その後」をレポートできるのではないかと思う。最後に、個人的な話題で恐縮だが、野茂投手が立ち上げたNOMOベースボールクラブ、大家投手が設立した大家友和ベースボールクラブの「草津リトルシニア・パンサーズ」が、それぞれ都市対抗、日本選手権への出場を決めた。短い活動期間ながら成し遂げた快挙に、心から賛辞を送りたいと思う。

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