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『ベッカムは役に立っていない』か? 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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photograph byTomohiko Suzui

posted2004/03/25 00:00

『ベッカムは役に立っていない』か?<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 またベッカムの周辺が騒がしくなってきた。

「マンチェスター時代の方が活躍していた」とか「ここ数試合は何もしていない」とか「ロナウディーニョの方が良かった」とか。国王杯に敗れ、一時は独走していた国内リーグでもお尻に火がついたレアル・マドリーの評価は、ここ3週間で急降下した。

 疲れ切ったレギュラー陣を頑固に使い続けるケイロス監督の采配とともに、以前のような輝きを見せない銀河のスターたちに、ファンのイラ立ちは募っている。

「お金持ちが気に食わない」というひねくれた私には、サラゴサの勝利は爽快だったし、タイトル争いの白熱化はサッカーファンとして大歓迎。ついでにジャーナリストとしては、「バルセロナが優勝候補!」と大見得を切り大恥をかいてきたが、今なら遠慮気味に、胸を張れるというものだ。

 そんな中、スペインを代表する新聞「エル・パイス」(3月22日)に『ベッカムは役に立っていない』という興味深い記事が掲載された。タイトルはショッキングだが、同紙のクオリティーの高さを象徴する、データに基づいた丁寧な分析だ。それによると、「ベッカムが加わったレアル・マドリーは、昨季のチームよりも得点力は落ち、フリーキックからの得点も減少、センタリングの数も減った」という。

 第29節を終え、レアル・マドリーの得点は58、失点は35、得失点差は23。昨季は得点66、失点31、得失点差35。今季のレアル・マドリーの攻守バランスの悪さは、誰もが指摘していたが、それを攻撃力のアップで補うはずだった。が、ベッカム加入で予想通り失点は増えたが、得点は増えていない。

 たとえば、ベッカムの黄金の右足が輝くはずのセットプレー。コーナーキック、フリーキックからのレアル・マドリーの得点はわずか3、1試合平均 0.1点(以下データはすべて国内リーグのもので「エル・パイス」調べ)。これは1位アトレティコ・デ・マドリーの得点14に遠く及ばず、リーグ16位。昨季はシーズン終了時点で、10ゴール、平均0.26だから落ち込みは深刻だ。ベッカム、ジダン、ロベルト・カルロス、フィーゴと世界最高のキッカーを揃えての、この結果には驚かされる。

 ベッカムは先週の国王杯決勝で、素晴らしいフリーキックを決めた。フリーキックやコーナーキックからの直接のゴールは確かに鮮やかだが、チームの全体の得点力アップには結びつくとは限らない。なぜなら、枠に飛んだ10本のキックよりも、確実にヘディングされた10本のキックの方が、ゴールになる確率は高いからだ。

 もっともこれはベッカムのせいだけではない。

 レアル・マドリーの今季のヘディングによるゴールは8。これは14ゴールで1位のバジャドリーから遠く離され、9位。モリエンテスを放出した今季のレアル・マドリーには、ヘディングの名手がいない。フォワードのロナウド、ラウール、ポルティージョは揃って空中戦が苦手。ヘディングシュートを計算できるのは、ディフェンダーのエルゲラだけだ。ファン・ニステルローイがいるマンチェスター・ユナイテッドとは大違いだ。

 さらに、ベッカム加入で期待されたセンタリングからのゴールも、予想外に少ない。

 レアル・マドリーの10ゴールはリーグ13位。1位アトレティコ・デ・マドリーとエスパニョールの18ゴールの約半分。センターフォワード不在で得点力不足に泣いた、あのバルセロナでさえ16ゴールを決めている。そもそもセンタリングの数自体、横ばいなのだ。1試合平均、昨季が23.2本だったのが、今季は23.1本と微減。もっとも、右サイドで起用されたマンチェスター時代とは違い、今はボランチでプレーしているから、センタリング数でのベッカムの貢献が少ないのは当然だ。唯一、ベッカム効果と呼べるのが、ディフェンダーの後ろへのロングパスで、これは1試合平均15本と増加している。

 データから言えることは、つまりこういうことだ。

 レアル・マドリーにはヘディングの名手がいない。せっかくベッカムがコーナーキックやセンタリングを上げても、ゴールを決める選手がいない。レアル・マドリーのゴールはその大部分が、パスを細かく繋ぐ連係プレーから生まれている。ベッカムが得点に直接貢献しているのは、縦へのロングパス。自陣からの精確なパスを拾ったロナウドがディフェンダーを振り切ってゴール、というシーンこそ、ベッカムの真骨頂だと。

 果たして、『ベッカムは役に立っていない』のか?――。攻撃面への貢献だけで判断するのは、可哀想だ。ベッカムがスペインリーグで認められたのは、何よりもフォー・ザ・チームに徹する献身的な守備ぶりだったのだから。

 以前、『ディフェンダーとしてのベッカム』(2003年10月23日付け)の回で、私は「ディフェンダーとしてのベッカムは下手だと思う」、「テクニックのなさを走力と集中力で補っている」と評価し、「が、それがいつまで続くか? 当たり前だが、ベッカムの体力が続くまでだろう」と疑問符を付けておいた。

 このところ、ベッカムの動きが冴えない。

 足が止まり、パスの精度が落ち、相手選手や審判に食ってかかるシーンが増えた。国王杯決勝でのサラゴサの決勝ゴールは、ボールをもてあそんでいてインターセプトされる、本当に馬鹿げたベッカムのミスから生まれた。体も心も――他のスーパースターたちと同様――疲れ切っている様子がうかがえる。トレードマークだったユニフォームの汚れも、スライディングタックルの数が減って目にしなくなった。攻撃的ボランチとしての役割をグティに奪われ、守備に回ることが多くなっただけに、ベッカムの衰えは余計に目を引く。

 レアル・マドリーがベッカムを獲得した意味、ベッカムの真の価値は、これから問われるのだが……。

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