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青木真也、確信犯のミドルキック。
~寝技師対決をMMAで制す~ 

text by

橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph bySusumu Nagao

posted2009/08/02 08:00

青木真也、確信犯のミドルキック。~寝技師対決をMMAで制す~<Number Web> photograph by Susumu Nagao

シャオリンを圧倒した青木は、10月6日『DREAM.11』にて、ヨアキム・ハンセンとライト級タイトルマッチを行うことが濃厚となった

 青木真也は、バーリトゥードとMMA(ミックスト・マーシャルアーツ)という二つの用語を明確に区別して使う。バーリトゥードとは、言い換えれば他流試合である。柔術とキックボクシング、レスリングと柔道など、違う競技の選手同士が優劣を競う場だ。対してMMAは打撃、投げ、寝技などあらゆる技術を融合させ、使いこなすスポーツ。青木の言葉を借りれば「MMAという一つの競技」である。

 他流試合の興奮も捨てがたいのだが、現在の“世界基準”はMMAだ。世界最大の格闘技イベント・UFCで結果を出すのはMMAファイターばかり。“徹頭徹尾、殴る蹴る”や“ボコボコにされながらも一発逆転の関節技を狙う”といった他流試合タイプはメインストリームから取り残されているのが現状であり、青木が志向するのもMMAにほかならない。

 7月20日、『DREAM.10』(さいたまスーパーアリーナ)のリングで青木が見せたのも、MMAとしての闘いだった。対戦相手のビトー“シャオリン”ヒベイロは柔術世界選手権3連覇の実績を持つ、世界トップクラスのグラップラー。青木も多彩な関節技で名を馳せた選手だけに寝技合戦が期待されたのだが、試合の流れを決めたのはムエタイ式のミドルキックだった。

 ボディ正面にスネを叩き込む。足先で脇腹を弾く。腕を蹴ることで相手のガードを下げさせると同時にパンチング・パワーを削る。青木は様々なパターンのミドルキックを使いこなし、間合いとリズムを支配していった。それは、キックボクシングのリングで何度も繰り返された光景――老獪なタイ人が、若い日本人キックボクサーを技術で翻弄する――に酷似していた。

青木が繰り出した、組み勝つための打撃。

 ただし、これは単なる打撃戦ではなかった。青木のミドルキックが最も効力を発揮したのは、組み技の局面だったのだ。間合いとリズムを制されたシャオリンには、不充分な体勢で強引に組みつくしか手が残されていなかった。当然、組み勝つのは青木だ。その結果、組みついたシャオリンが自ら組み技の展開を嫌って離れていく場面が何度となく繰り返されることになった。

 重要な判定基準である「ワーク・トゥ・フィニッシュ」、すなわち一本、KOを狙う姿勢も、青木は欠かしていなかった。離れ際に放ったストレートやヒザ蹴りからは、充分に“殺意”を感じることができた。ほんのわずかでもディフェンスが遅れていたら、シャオリンはマットに仰向けにされていたのではないか。2ラウンド後半にはテイクダウンを許した青木だが、下からの巧みな仕掛けでシャオリンに決定的な場面を作らせなかった。欲を言えばKOか一本での決着が見たかったところだが、3-0の判定結果に疑問を差し挟む余地はない。

 打撃で主導権を握ることが組み技での優位を導き、組み勝つことでKOのチャンスを生み出す。青木が展開したのは、正統的かつハイレベルなMMAの闘いだった。試合後のシャオリンは「いつも寝技で勝っているアオキが、なぜ今回は寝技にこなかったんだ」と不満を漏らしたが、その言葉に説得力はなかった。青木は“寝技から逃げた”のではなく“真っ向からのMMA勝負”で勝利を収めたのである。

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