MLB Column from WestBACK NUMBER

WBC・中南米の深い謎 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byYasushi Kikuchi

posted2006/03/15 00:00

WBC・中南米の深い謎<Number Web> photograph by Yasushi Kikuchi

 いよいよワールド・ベースボール・クラシック(WBC)も第2ラウンドに入り、かなりの盛り上がりを見せている。私も日本とは別プールの取材をするためプエルトリコにいる。まさに事実上の中南米最強決定戦とあり、個人的にも注目しているラウンドだ。WBCの活況ぶりを嬉しく思う反面、前々回にも取り上げたとおり、まだ多くの問題点を抱えているのも事実だ。キャンプ取材中に様々な人々の意見を集めているので、WBCが終了した時点で改めて総括したいと思っている。

 さて今回は、キャンプ中に拾った取材余話を紹介したいと思う。ある意味、メジャーリーグの“ミステリー・ゾーン”を取り上げることになる。メジャーの不透明な部分といえば、最近サンフランシスコの地元紙記者たちが上梓した本が話題となり、再びバリー・ボンズ選手のステロイド使用疑惑が取り沙汰されているが、今回の話題はそこまで深刻なものではない。中南米、特にドミニカ出身選手の年齢詐称についてだ。

 2、3年前のことになるが、春季キャンプ前後にアルフォンゾ・ソリアーノ選手、ラファエル・ファーカル選手らが次々に公表年齢を変更したのを憶えているだろうか。実はその背景にあったのが、9・11の同時多発テロ後、米国政府のビザ発給手続きが厳しくなり、メジャー選手たちのビザ書類記載事項も厳密を期すようになったためだ。裏を返せば、それ以前は多くの中南米出身選手が年齢を誤魔化していたということだ。だがビザ手続きが厳しくなる前に、米国永住権(グリーンカード)を取得した選手は対象外なので、まだまだ実際の年齢を隠している選手もいるはずだ。

 実はこの話題を取り上げる経緯というのが、某チームのオープン戦取材に回ったときのこと。試合前のメディア・ルームで地元記者とチーム付きのスペイン語放送を担当するアナウンサーの3人でWBCの話で一頻り盛り上がった後、ふとしたことから話題が膨らんでいき選手の年齢の話になったのだ。

 彼らによると、中南米出身選手たちが年齢を偽らなくてはならないのは、もちろん理由があるためだ。中南米諸国の選手たちはドラフト対象外なので直接各チームと契約できるが、その際に若い選手の場合、早めに米国へ連れてきて学校へ通わせて英語を習得させるケースがあるらしい。確かに選手の中には中南米出身でありながら米国の高校を卒業している選手がすくなくない(もちろん家族が移民してきた場合も含まれる)。この時に実質年齢を学校入学に見合う程度にサバを読み、米国にやって来るということなのだ。

 例えば、この時の話題に上った選手にアルバート・プーホルス選手がいる。カージナルスのメディアガイドによると、16歳の時に父とともに米国に移り、ミズーリ州の高校とコミュニティ・カレッジを卒業し、カージナルスと契約に至っているのだが、この米国に移住してくる際に、前述のアナウンサー曰く「その当時彼が若く見えたこともあり、問題なく高校に行けるように年齢を若くしたらしい。実際の年齢は30歳以上だと聞いている」。この話が正しいとするなら、登録は1980年1月16日生まれのプーホルス選手は、少なくとも4歳誤魔化していることになる。

 さらにびっくりしたのが、今季メッツと2年契約を結んだフリオ・フランコ選手だ。実は彼も公表年齢を変更した1人なのだが、それさえもまだ正しくないというのだ。現在フランコ選手の登録生年月日は1958年8月23日。47歳ながら現役でいることすら驚異的なのに、本当はもっと上かもしれないというのだから面白すぎる。

 やはり同アナウンサーが昨年取材中に知り合ったドミニカ人に聞いた話を教えてくれたのだが、そのドミニカ人はフランコ選手の隣近所の出身で、彼が生まれた頃からフランコ選手は立派な野球選手だったらしい。その当時彼が聞き入っていた年齢を現在に適応すると、何と54歳になるというのだ。すでに野手ではメジャー最高年齢記録を更新中のフランコ選手だけに、もしこれが事実なら、是非とも本当の年齢を発表してほしいものだ。

 とはいえ、ここで紹介したエピソードはあくまで噂話の域を脱していないし、信憑性を欠いているのも否めない。だが敢えてこの話題を取り上げたのは、メジャーにとって年齢などさしたる問題ではないということだ。実力があり、成績さえ残せばいつまでも居座れる世界だからこそ、こんな奇妙な灰色部分が存在していることが何となく嬉しく思えたからなのだ。

 参考までにメジャーの最高齢選手とされるのが、1965年当時のサッチェル・ページ投手の59歳。しかしこの記録自体も、長年ニグロリーグでプレーしてきたページ投手の自己申告で、実際はもっと上だったと言われているのだ。果てしなくミステリーは続いていく。

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