カンポをめぐる狂想曲BACK NUMBER

From:東京「錆びないために。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2006/12/01 00:00

From:東京「錆びないために。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

──「白金ナノコロイド」──

非常識人が多いと思われる日本において

この成分を本当に摂取して欲しい人、それは……

 いよいよ今年も師走を迎える。深夜、毛糸の帽子をかぶり、自宅近くのセブンイレブンに出かけようと外出すれば、外苑西通り、通称キラー通りでは、イルミネーションの飾り付けが、12月1日の点灯式に向け、急ピッチで進んでいた。

 冬は嫌いな季節ではけっしてない。あの肌をピリピリ刺すような冷たさは、むしろ快感。先日、サウジ戦の観戦取材のために出かけた札幌では、試合後、なんだかんだいって、朝まで飲むハメになったのだけれど、お店を出て100mも歩けば、正気度は100%回復されていた。街頭の寒暖計の表示は2度。試合前には、雪が舞う光景にも出くわしている。来週、僕はコペンハーゲンに行く。札幌以上のゾクゾク感が待ち受けているかと思うと、妙に心が高ぶってくる。

 だからといって、夏のカンカン照りが嫌いなわけではない。蒸し暑さはそれは、苦手といえば苦手だけれど、嫌いだとはいいたくない自分がいる。−10度から+40度まで、僕の許容範囲は広い。早い話がどの季節も好き。もっと言えば、僕には世の中に嫌いなモノがほとんどない。毎日が楽しくて仕方がないというわけだ。悩みがなさそうで良いですね〜とは、僕にたびたび向けられる言葉だが、仰るとおり。反論はない。だが、いっぽうで、気になって仕方がないことは、山のようにある。夜も眠れなくなるような。

 ある時、セブンイレブンに出かけると、ドリンク類の陳列コーナーに、新商品を発見した。ラベルにはプラチナ・ウォーターとある。貴方の「なりたい」をサポートする。白金ナノコロイド配合。錆びない身体に。商品説明というか、宣伝文句にも、あやふやな言葉ばかりが並ぶ。僕はその不思議さに誘われるように、以降、毎日1本必ず飲んでいたところ、テレビCMも始まった。「白金ナノコロイド」は、サプリメントとしても商品化されていた。

 だが、いくらCMに目を凝らしても効能は分からずじまい。錆びない身体ってなんですか。人間の身体に金属は含まれていないはず。錆びるわけがない。インチキ商品じゃないのか。ハテナ印は、それを一本飲むたびに、確実に増殖していくのだった。JAROに通報しようかどうしようか、良心を悩ます毎日が続いた。

 そこでようやくグッドアイディアが湧いた。辞書で検索することを思いついたのだ。

 「白金ナノコロイド」には、活性酸素を除去する効果があるんだそうだ。活性酸素とは老化の原因に繋がる物質らしい。あるいは、三浦カズは商品化される前から、これを常用していたではないだろうか。彼は最近富みに若返っている。一昔前より確実に、動きが軽くなっている。オシム監督には、是非お勧めしたい。65歳にしては、ずいぶん老けて見えるので。

 白金ナノコロイドの謎は解決した。すると、今度は「世界バレー」が目の前に現れた。そもそも、FIVBバレーボール世界選手権をなぜ世界バレーと言い換えるのか。世界陸上、世界水泳、世界バスケもそうだけれど、こういった途端、世界選手権の権威は失墜したも同然。めいっぱいお安いイベントに見えてくる。「オフィシャルサポーター」もいただけない。報道陣なのか、ファンなのか。彼らが、場内のマイクを使って、「ニッポン!」を連呼する姿は、非常識この上ない。注意してやる大人はいないのか。バレーボール協会はどうしたのか。プライドはないのか。そんな暴走を許してしまうFIVBって何?そうでないとバレーボールは、もはや成り立たないのか。だとしたらこの競技はとても哀れだ。外国からやってきたメディアの目も気になる。彼らには日本戦の会場の光景が、どう映っているのだろうか。日本がさぞや滑稽な国に見えているに違いない。それを書かれることは、日本の大きな恥だと僕は思うのですが。

 そうした意味で、サッカー界にあってオシムは貴重な人材だ。彼には日本人の大人が失いかけている常識がある。必要以上に、老けて見える頑固爺然としたルックスが、逆に効果を発揮している面なきにしもあらずだが、サッカーを取り巻く世界にも、この含蓄に富んだ常識人を、疎ましく思っている人が数多くいる。視聴率の低迷を必要以上に強調したり、代表選手のメンバーを地味だと言って嘆いたりするメディアは、とりわけ怪しい存在に見える。イベント消費型。スター選手消費型の行く末は、極めて暗いと僕は思う。サッカーのワールドカップが「世界サッカー」と呼ばれる日は訪れるのだろうか。そうなったら、日本のサッカー界は完全に冬の時代に突入する。

 そうこうしているうちに「Jリーグの優勝争いは、最終節にもつれ込んだ」。浦和レッズかガンバ大阪か。「ガンバ大阪が勝利した場合は、得失点差の争いに持ち込まれる」。

 それはそうなのだけれど、そのほとんどの記事、テレビニュースは、5もある得失点差については、なぜか積極的に触れようとしていない。ガンバが3点差をつけて勝つことは、常識的に難しい。曖昧にしておいた方が得策。それを言っちゃあお終い。盛り上がるモノも盛り上がらないという商売っ気が見え隠れする。事実をキチンと伝えることが、報道本来の使命だと僕は思うのだが。

 いじめ問題などを見ていても痛感することだが、日本には真っ当な大人が少なすぎる。社会が悪くなるのは当然。オシムに白金ナノコロイドを摂取していただく必要性を、改めて痛感する今日この頃だ。僕がサプリメントの発売元なら、CMには綺麗なお姉さんではなく、オシム監督を起用するんだけれどナ。彼には、錆びてもらうわけにはいかないのだ。

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