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こんな選手は見たことがない。 

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小関順二

小関順二Junji Koseki

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posted2007/05/16 00:00

 センバツ甲子園大会で最も鮮烈な印象を残したのは熊本工の走塁である。参加各校が合言葉にしている「全力疾走」を本気になって実行し、ベスト4という好結果に結びつけた。熊本工と同じように「全力疾走」を唱えているのが帝京高。しかし、2校の「全力疾走」という言葉の意味は同じではない。帝京高の全力疾走は塁に出てからの走塁を指しているように思える。それが三塁盗塁失敗やスクイズ失敗という形になって現れることが多く、結果的には相手にスキを与えている。

 熊本工の全力疾走は打者走者としての走塁も含まれているから、塁に出なくても相手校のバッテリーや守備陣にプレッシャーをかけ続けることができる。言うなれば「ノーリスク、ハイリターン」。

 帝京高の「全力疾走」はリスクが大きいばかりではなく、相手へのプレッシャーも小さい。厳しい言い方をすれば「自己満足の全力疾走」と言っていい。打者走者としての一塁到達に力を抜かず、その上で塁に出たら二盗、三盗を狙えば帝京高の全力疾走は意味を持ってくる。そうでないと、ただの「無謀な走塁」と言われかねない。

 さて、今センバツ大会で全力疾走の目安「一塁到達4.29秒未満」「二塁到達8.29秒未満」「三塁到達12.29秒未満」を1試合3人以上記録したチームは次の通りだ。

◇熊本工(千葉経大付高戦) 6人
◇熊本工(常葉菊川高戦) 5人
◇熊本工(室戸高戦) 5人
◇千葉経大付高(熊本工戦) 5人
◇千葉経大付高(中京高戦) 5人
◇仙台育英高(常葉菊川高戦) 4人
◇熊本工(県和歌山商戦) 3人
◇都留高(今治西高戦) 3人
◇北大津高(大垣日大高戦) 3人
◇大阪桐蔭高(日本文理高戦) 3人
◇大阪桐蔭高(佐野日大高戦) 3人
◇中京高(千葉経大付高戦) 3人

 一目瞭然で熊本工の全力疾走ぶりがわかる。さらに千葉経大付高が全力疾走に取り組み、仙台育英高、大阪桐蔭高という投打の怪物選手を抱えているチームも、ワンマンチームでないことが理解できる。この中でも際立って速い選手が、熊本工の藤村大介(遊撃手)。準決勝までの4試合で藤村がどれだけタイムクリアしたのか、次に紹介しよう([ ]内数字は打席数)。

◇1回戦・県和歌山商戦

[2]遊撃ゴロ3.96秒、[3]中前打4.01秒、[4]三塁打11.40秒

◇2回戦・千葉経大付高戦

[1]遊撃ゴロ3.90秒、[4]一塁ゴロ4.14秒、[5]右前打4.08秒、[7]遊撃安打3.87秒

◇準々決勝・室戸高戦

[1]三塁ゴロ3.87秒、[2]三塁ゴロ3.85秒、[4]二塁ゴロ3.88秒

◇準決勝・常葉菊川高戦

[1]三塁ゴロ3.81秒、[2]三塁打11.40秒、[3]三塁打11.10秒、[4]一塁ゴロ3.86秒、[5]二塁ゴロ4.10秒

 センバツの成績は打率.400(20打数8安打)、打点5という素晴らしいもの。さらに特筆されるのは、20打数のうち全力疾走のタイムクリアをしたのは15打数もあったこと。こんな選手は見たことがない。さらに常葉菊川高戦の第3打席で記録した三塁打のときの三塁到達時間11.10秒は、06年9月 20日の専大対東京農大戦で松本哲也(当時専大、現巨人)が記録した11.11秒を抜く、僕が計測した中でナンバーワン記録。

 脚力だけがすべてではないが、藤村は昨年まで課題だったディフェンス面でのスローイングをセンバツで矯正してきているように、意識の高さには並々ならぬものがある。残る課題はバッティング。レフト方向への打球が露骨に多いのは、藤村の場合は走り打ちの弊害と断言できる。これがきれいに引っ張れるようになったら、スカウトは「ドラフト1位」という勲章で藤村をプロに迎え入れなければならないだろう。

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