総合格闘技への誘いBACK NUMBER

パフォーマンスもいいんじゃない♪ 

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石塚隆

石塚隆Takashi Ishizuka

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photograph bySusumu Nagao

posted2006/11/08 00:00

パフォーマンスもいいんじゃない♪<Number Web> photograph by Susumu Nagao

 6時間超の長丁場。11月5日に行なわれた『PRIDE武士道−其の十三−』は、判定試合の連続で、なんとも間延びする観る側にとってはいささかしんどい興行となった。消極的になってしまった五味隆典のリベンジマッチの勝利も、敗者復活した三崎和雄のウェルター級グランプリ制覇もどこかしらスッキリせず、もやもやとしたモノが残ったものだ。

 たまにはこういう大会だってある。総合格闘技という競技の特性を考えれば仕方のないことだ。観る人を喜ばせるためにエキサイティングにと安全性をないがしろにし、わざわざ激しく派手に打ち合わせるよりはいい。ただ興行という観点で考えれば、このような大会が続くと衆目が集まらなくなっていくのも確か。これは格闘技界が昔から抱えるジレンマなのである。

 そんな大会の最中、心弾んだシーンが2つ。

 ひとつは、試合前の“煽り映像”が地上波撤退問題以前のクオリティに戻ったことである。なんでも以前フジテレビでPRIDEを担当していたディレクター氏が独立し制作会社を設立したということで、再びPRIDEとタッグを組むことになったという。それにともない、“これぞPRIDE!”といった印象的な声を持つナレーターの立木文彦氏も復活。目と耳の記憶はウソをつかない。このメディア時代、煽り映像のクオリティはその試合への感情移入を促す意味で大きな役割を果たしている。かつての煽り映像はその点において一級品であり、地上波撤退以後PRIDEに欠けていたパーツのひとつが復元されたといっていいだろう。

 現在、地上波放送再開を目指しPRIDEを運営するDSEは動いているが、地上波撤退で命運をともにした気心知れるディレクター氏の制作会社があれば、どこの局で放送したとしても“馴染みあるPRIDE”がそのまま楽しめることになる。

 そして、もうひとつ。それは郷野聡寛の存在である。

 実力派のベテランであり、ウェルター級ベスト4ファイター。大胆不敵でユーモアある発言の数々は、以前はいささかスベりがちだったものの、今年に入り急激に注目度がアップ。人気アーティストDJ OZMAならぬDJ GOZMAに扮したパフォーマンスは、会場でやんやの喝采を浴びるまでになった。

 そして今回、準決勝のデニス・カーンとの試合前の入場で、本家DJ OZMAを迎えた驚愕のパフォーマンスを披露。30人のバックダンサーを従え『アゲ♂アゲ♂EVERY騎士』をダンスするといった、もはや格闘技の入場の常識を完全に超えるものだった。入場パフォーマンスでは須藤元気が有名だが、その規模と手のこみようは須藤をも凌ぐものであり、入場パフォーマンスというよりは“ステージ”の類だったといってもいいだろう。DJ OZMAのトークも混じりながらのパフォーマンスの時間は10分以上。先に入場し待たされるカーンにとっては気の毒な話だが……。

 さて、このパフォーマンスは郷野の思いつきで始まったそうだ。両者はともに合コンをやる旧知の間柄であるが、DJ OZMAと対談をした格闘技専門誌『GONG格闘技』によれば、予告なしにいきなり自分の扮装をして入場してきたDJ GOZMAの姿を見て「も〜っ、最高!」と嬉々としてメールを送ったそうな。こんなご縁で今回の共演となったというわけだ。

 とはいえ格闘家は戦いが本分。強さ以上の吸引力や説得力もないわけで、「パフォーマンスなんてやらなくていい。だから負けるんだ」と目くじらを立てるファンやマスコミ、関係者はいるだろう。

 しかし、今年の新庄剛志を思い出してほしい。引退宣言をはじめ襟付きアンダーシャツ論争など野球そのものとは別のところで物議を醸し出したが、パフォーマンスも含め新庄の一挙手一投足を観たいとファンが強く願ったゆえに、プレーオフや日本シリーズが盛り上ったといっても過言ではない。守備は一級品だが打撃成績でいえば並の選手にしかすぎない新庄が、ここまでファンを魅了したのは、やはりその奔放とも呼べる派手なパフォーマンスによるところが大きい。

 人気のあるヘビー級とライト級に挟まれた、まるで谷間のようなウェルター級。郷野は派手な入場をすることについて次のように語っている。

 「ウェルター級がイマイチ盛り上ってなかったし、ここで何かやらないといけないという宿命にかられていた。もう、いっぱいいっぱいだった」

 さまざまなリングを渡り歩き、選手歴の長い郷野は、格闘技をとりまく世の中の空気を敏感に察知し、このパフォーマンスに及んだのだろう。長い興行、郷野のパフォーマンスは、清涼剤とまではいかないが、ライヴ感溢れる盛り上りをみせ、非常に印象的なモノに映っていた。

 果たして次はどんなアクションを起こしてくれるのか。いい意味で野次馬的に見守っていきたい存在である。

 ちなみに筆者の郷野パフォーマンスのお気に入りは、ラウンドの間に新庄、森本稀哲、稲葉篤紀よろしく片膝を立て談笑しているその姿である。うーん、細かい!まあ、カーンにしてみれば「何やってんだ?」といった感じでしょうけどね。

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