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WBC、開催国アメリカの“温度差” 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byThomas Anderson/AFLO

posted2009/01/29 00:00

WBC、開催国アメリカの“温度差”<Number Web> photograph by Thomas Anderson/AFLO

 年明け早々から相変わらずの不定期更新であることをお許し願いたい。

 相変わらず世の中は不景気な話題に満ちあふれ、メジャー球界も120人を超えるフリーエージェント選手が契約できないまま越年する始末。先日川上憲伸投手の代理人を務めるダン・エバンス氏の元を訪れた際も、「信じられない状況。今後どうなっていくのか先が読めない」と不安げに話していた。春季キャンプを約2週間後に控えた今となっては、キャンプ期間中に契約が決まりチームに合流する選手が続出する事態になりそうだ。

 さて不況騒ぎとは別に、昨年末辺りから球界に不穏な空気が広がり出したのが気になっていた。第2回WBC開催が徐々に近づくにつれ、第1回大会同様に、主催者であるMLB機構と各チーム、各オーナーの間にある“温度差”が表面化してきたことだ。

 各国代表チームの第1次候補が徐々に明らかになっていく中で、多くのスター選手たちが出場辞退を表明していったのは記憶に新しいだろう。特に米国代表チームは、他チーム以上に辞退者が続出。とてもではないが「ドリームチーム」と呼ぶにはふさわしくない陣容になっている。

 もちろん故障を理由に辞退するのは致し方がないことなのだが、単純に本人の意志だけでなくチームの方針が加味されているのは紛れもない事実だろう。日本代表チームの第1次候補に名を連ねていたドジャースの黒田博樹投手は、チームとの話し合い後に調整を理由に出場辞退を申し入れ、斎藤隆投手もレッドソックスとの契約が決まった後に辞退を表明している。両選手とも以前からWBC出場に前向きなコメントを発していただけに、やはりそれぞれのチームの思惑は「WBCよりもチーム優先」だということなのだろう。

 例えばヤンキースの場合、その姿勢が鮮明だ。昨年末からブライアン・キャッシュマンGMは松井秀喜選手の出場を否定し続け、このオフ大型契約を結んだCC・サバシア投手、AJ・バーネット投手、マーク・テシェイラ内野手は、昨年誰1人として大きな故障をしていないにもかかわらず、誰も代表チームに入っていない。さらに同GMは、昨年右肩故障で長期欠場していたホルヘ・ポサダ捕手についても、プエルトリコの代表入りを辞退するよう公の場で発言している。

 このようにメジャー球界内で足並みが揃っていない状況では、どう考えても“国際大会”としてのWBCの存在意義が霞んでいってしまう。まだシーズン前の調整段階である3月という開催時期、収容人員を確保するため各代表チームに主力メジャー選手を振り分けようとする代表入り基準の不透明さ──等々、こういった問題がクリアにならない限り、WBCが本当の意味で国際大会として認知されていかないだろうし、各チームの支持も得ることはできないだろう。

 「もう一度本気で世界一を奪いにいく。WBC日本代表のユニホームを着ることが最高の栄誉であるとみんなが思える大会に、自分たちで育てていく。シンプルなことなんですけどね」

 これは、昨年10月にイチロー選手がWBCに関してメディアを通じて発表したコメントだ。彼だけでなく、第1回大会に出場した他国代表チームの中にも、同じような気持ちを抱いていた選手がいたのを自分自身で確認している。そして今回の大会で、そういった選手がさらに増えてくれることを希望して止まない。

 たとえ将来的に野球がオリンピックの正式種目に復帰できたとしても、個人的にはサッカーのワールドカップに匹敵する大会が野球にも必要だと感じている。WBCがイチロー選手たちの希望通り成長していくためにも、米国以外の日本をはじめとする各国代表チームが勝ち続け、各国の野球組織が開催自体に影響を及ぼす存在になれれば、必ずWBCはメジャー機構の単独開催という矛盾から解放されると信じている。

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