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From:北京「叩かれるべき条件。」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2008/08/15 00:00

From:北京「叩かれるべき条件。」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

オリンピックでは国民の期待を裏切る敗退も当然ある。それは仕方ない。

しかし、負けたときには、もっと反省し、大いにがっかりすべきだ。

“応援”とは一線を画した客観的な検証。それなくして発展はないのだから。

 サッカー男子は、4年前のアテネ同様、2戦2敗で3戦目を待たぬうちに脱落が決まった。メダル候補ともてはやされた前回は、にもかかわらず、反省、検証をおろそかにした。そしてメディアは、金メダル16個を獲得した五輪フィーバーのほとぼりが冷めるのを見計らうかのように「さあ次はドイツW杯だ!」と、これまでと同様の手法で煽った。今回の顛末はどうなるのか。協会、メディアはどんな対応をするのか。それにファンはどんな反応を示すのか。

 多数のファンを抱える競技。

 強化にそれなりの大金が投じられた競技。

 選手がそれなりの収入を得ている競技。

 成績が振るわなかったとき、以上の条件を満たしている競技は叩かれても仕方がないと僕は常々思っている。

 サッカーはその代表格だ。「3戦3敗」は叩かれる対象になるが、サッカーメディアのこれまでの経緯を考えると、その成績は、サッカーを取り巻くメディアのヨイショ体質に相応しい結果に見える。

 しかし同じサッカーでも、女子サッカーになると話は変わる。こちらは、叩かれるべき条件を満たしている競技には見えてこない。

 この原稿を書いている段階で、その成績は1敗1分。脱落寸前の厳しい戦いを強いられている。僕はその第1戦、対ニュージーランド戦を日本で見た後、北京にやってきたのだが、中継した日本のテレビ局をはじめとするメディアの対応は、おしなべて甘かった。絶対勝たなければならないニュージーランドを相手に、想定外の引き分けを演じたというのに「0−2から同点に追いついた頑張りは見事でした」と、むしろ健闘を称えるかのような姿勢を貫いたのだ。

 叩く必要はないと思う。しかし、置かれた状況ぐらいは、正確に分析されなくてはならない。むしろキチンとがっかりしてみるべきなのだ。それをせず「次の試合に期待しましょう」では、報道は応援と同義語になる。中立性、客観性は失われることになる。

 負けたときぐらい悲しみましょうよと僕は言いたい。前述の条件を満たしている競技なら、怒りましょうよと言いたい。

 そんなこんなを思いながら今日、天津から北京に戻ってきた。両都市は、小田原と東京ぐらい離れているにもかかわらず、新幹線に乗ればジャスト30分で到着する。340キロを超えるスピードを誇る超近代鉄道だからだ。日本の新幹線より、これは間違いなく速い。

 天津発の新幹線が到着する「北京南駅」のターミナルがまたすごい。サッカーグラウンドが何面も取れてしまう馬鹿デカさだ。駅のターミナルというより空港のターミナルのように見える。

 とりあえずホテルにチェックインし、昼寝を2時間、原稿書きを2時間。そして柔道会場に出かけた。

 時間が迫っていたので、移動手段にタクシーを使ったのだが「目的地」に着くと何か様子がおかしいことに気がついた。英語が話せる係員を何とか探しだし「入場ゲートはどこ?」と訊ねれば、「今日は試合がない日なので入れません」と言われてしまった。

 そうなのである。僕は間違えてしまったのだ、会場を。「北京科技大体育館」に行かなければならないのに、到着したのは「北京農業大学体育館」。明日から競技が始まるレスリング会場に出向いてしまったのだ。理由は簡単。地図に記されていたレスリング競技を示す絵文字を、柔道の絵文字と勘違いしてしまったのだ。

 幸い、それぞれの体育館の距離はタクシーで10分足らずだったので事なきを得たが、まだ僕の足は北京五輪に馴染んでいない。浮き足だった状態にある。

 それはこの日の、日本柔道にもあてはまる。敗者復活を戦う男子73キロ級の金丸雄介が目の前でいきなり敗退すれば、女子57キロ級の佐藤愛子も、試合途中、怪我で棄権に追い込まれてしまう。

 少しばかりがっかりさせられたことは事実だが、彼らを「お家芸の伝統を守れなかった選手たち」と叩く気にはなれない。前述の条件から外れているように思うからだ。

 そもそも柔道ファンは、日本にいったいどれほどいるのだろう。競技人口も人口比は低そうな気がする。

 僕の実感では、外国のほうが多そうに見える。フランス、オランダ、スペイン、イタリア……。サッカー取材で各地を回っていると、道場をあちこちで垣間見ることができる。ブラジルの「フラメンゴ」には柔道クラブもある。元オランダ代表選手のゼンデンも、自ら黒帯であることを自慢していた。聞けば「カトウ先生」に教えられたのだという。

 日本柔道の金メダルが減少に向かうのは当然だ。柔道競技が世界的にメジャーになり、金メダルの価値が重くなるほど、日本のメダルは少なくなる。皮肉な傾向だ。

 柔道会場を後にした僕は、すかさずタクシーを拾い、「北京工業大学体育館」へと向かった。21時10分からそこで「オグシオ」の試合が始まるとの情報を、連絡を入れた知人カメラマンから得たからだ。

 「工業大」には、交通規制でガラガラの幹線道路を30分ほどすっ飛ばすと到着する。「科技大」のある場所を新宿とすれば、「工業大」はさしずめ羽田空港。東京なら1万円近くかかるコースだが、北京ではわずか50元(約750円)。北京では、タクシーを見つけたらさっさと乗るに限る。

 とは言っても、僕には「オグシオ」を見るためのチケットがない。一か八か、ダフ屋を頼りに出かけてみたのだが……。オグシオの対戦相手は中国ペア。しかも、中国でバドミントンは抜群の人気を誇る。

 30分、ゲートの前をうろうろしたが、一人もダフ屋らしき人物とは遭遇できなかった。というわけで、観戦した場所は投宿ホテル近くの定食屋。担々麺とエビをほおばりながら、その備え付けのテレビに目を凝らした。

 結果はご存じの通り、一方的なストレート負け。この場合は、叩かれるのが筋なのか。微妙な問題だ。ただ、一人の男性スポーツファンとして言わせてもらえば、許せる敗戦になる(申し訳ない)。

 ホテルに戻ると、CCTV(中国国営放送)の画面には、午前中の試合で日本の「スエマエ」に、まさかの敗戦を喫した中国の世界チャンピオンペアの敗退シーンが、繰り返し流されていた。オグシオより彼女たちのほうがメディアから叩かれる材料は揃っている。中国国内の反応は、いったいどんなものなのか。

 叩く条件が整っている競技と、整っていない競技と。日本のスポーツ界には、後者のほうが圧倒的に多いような気がする。決して好ましい傾向だとは思えないのだ。

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