ジーコ・ジャパン ドイツへの道BACK NUMBER

2006年 VSボスニア・ヘルツェゴビナ 

text by

木ノ原久美

木ノ原久美Kumi Kinohara

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photograph byNaoya Sanuki

posted2006/03/07 00:00

2006年 VSボスニア・ヘルツェゴビナ<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

 相手にPKを与えたシーンが、日本の現状を象徴しているかもしれない。

 日本は2月28日にドイツ・ドルトムントのワールドカップ(W杯)競技場でボスニア・ヘルツェゴビナと対戦し、MF中田英寿のロスタイムのゴールで辛くも2−2で引分けたが、本大会へ向けて課題の多さを示す試合になった。

 PKをとられた場面は、後半11分、ドリブルでペナルティボックスに押し込んできたFWバルバレスに、マークについたDF中澤がボックスに入ったところで抜かれそうになり、思わず手を出して倒したもの。

 ボスニアは勤勉な寄せとしっかり人を捕まえるマークで日本のパスコースを消し、ミスを誘ってボールを奪うと、守から攻へ素早く切り替え、サイドのスペースを有効に使って日本ゴールへ迫ってきた。しかも、2列目、3列目からMFミシモビッチやMFグルイッチが出てくるが、日本はなかなか捕まえきれない。主力FWサリハミジッチは不在ながらも、ボスニアにはチームとしての形があった。

 こういう展開を見ていて、米国戦が思い出された。

 二つの試合では選手のコンディションも採用したシステムも異なるが、プレスをかけられて日本が窮し、サイドを起点にチャンスを作られるのは同じだ。つまり、これらの点を何とかしなくては、試合の主導権を握ることは難しい。

 ボスニア戦前半の得点機といえば、41分にMF中村からのロングボールがMF福西に渡った時ぐらいで、後半は、早々から攻撃のギアを1段上げて攻勢に出てきた相手に対応しきれなかった。

 前半44分のFW高原のゴールを帳消しにしたPKも、その11分後に2点目を献上する基になったGK川口のセーブミスも、その起点のFKを与えることになったDF三都主のファウルも、相手に気圧されて出たミスであり、ファウルだった。試合前日、「不用意なミスはしないこと」とジーコ監督は話していたのだが…。

 ボスニアには、相手のミスを誘うだけの精度の高いフィードと運動量があった。W杯予選でセルビア・モンテネグロ、スペインに遅れを取ったが、ベルギーもいた欧州7組で3位というのも頷ける。日本にとって厄介なのは、W杯本大会で対戦するクロアチアは、このボスニアよりもさらに堅守で試合運びももっと巧みだということだ。

 「日本の強さはボールをまわすことだが、プレスがかかると回らない。それはみんなわかっている」とMF中田英寿はコメントした。だが、チームとしての解決策は得られていない。夏休みの終わりが見えてきて、宿題が片付かずに溜まっていくような気がする。

 指揮官としては、今回は昨年10月の東欧遠征以来欧州組を招集できる貴重な機会として、少しでも多く一緒に動いて解決策を見つけたいところだったのだろうが、試合前日の降雪で満足な練習はできなかった。

 それでも、中田英寿を福西と共に守備的MF、2列目に中村と小笠原を配置する「昨夏のコンフェデレーションズ杯でいい形だった」とジーコ監督が手ごたえを感じていた組合せに、FW久保を加えて4−4−2を編成。W杯本大会の基盤にしたくて試した節がある。結果以上に、この組合せでどこまでできるのかを見るのが、この試合の最大のポイントだったのかもしれない。

 「最悪のコンディションの中で何が出来るか見極められただけでもこの試合の意義はある」とジーコ監督は言った。

 さらに、5月にW杯メンバーが確定してから取り組んでもチームの仕上げには十分間に合うと話し、「今日与えてしまったような悪い時間帯やスペースは、本大会では与えない自信はある」とも指揮官は言い切った。

 中田英寿の2年8ヶ月ぶりの代表ゴールは、苦しい時ほど強い精神力が必要で、それが明暗を分けるというジーコ監督の持論を擁護する。確かに一理あるが、それだけでは試合には勝てない。攻守両面で確認すべきことは多い。

 時間との戦いになってきた。

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