イチロー メジャー戦記2001BACK NUMBER

寡黙。 

text by

奥田秀樹

奥田秀樹Hideki Okuda

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photograph byKoji Asakura

posted2001/05/01 00:00

寡黙。<Number Web> photograph by Koji Asakura

 今から1カ月前のことだ。オープン戦とはいえ連日負け試合が続き、カクタスリーグの最下位争いをしていたマリナーズに、ルー・ピネラ監督が苦々しい表情でぼやいていた。

 「だいたい、今年のチームは静かな選手が多すぎるよ。ジョン・オロルド、エドガー・マルチネスにはじまって、デビッド・ベル、カルロス・ギエン、アル・マーチン、みんな口数が少ない。その上にイチローだろう…」。

 監督としては、沈滞ムードのクラブハウスで、闘志を露にし、みんなを叱咤激励して流れを変えてくれるような熱いリーダーが欲しかったのである。

 若い頃、選手時代のピネラはそんなタイプだった。監督になってからも、彼のチームにはケン・グリフィーJr.やアレックス・ロドリゲスのようなリーダーがいたのである。

 ところが今年は誰もいない。「静かすぎるのはちょっとなあ。なんとかそういう役割を担える選手が出てきて欲しいけど、場合によっては監督やコーチが声を出していかないといけないのかも」と言っていたのである。

 それが蓋を開けてみると20勝4敗の快進撃である。寡黙軍団は相変わらずで、試合後のクラブハウス、マルチネス、オロルドは記者に質問されても必要最低限のことしか言わないし、イチローは壁を向いて喋っている。だが、それぞれが与えられた仕事をきっちりこなしているから勝ちにつながるのだ。

 もっとも、シーズンがこのまま最後まで順調にいくということはまず考えられない。怪我やスランプをきっかけにめぐり合わせが悪くなり、連敗が続くことも十分に考えられる。そんな時に、誰がリーダーシップをとるのだろうか?

 イチローはプレーヤーとしては、すでに中心人物になっている。リードオフマンとして高い確率で塁に出るだけでなく、チャンスにも抜群に強い。スコアリングポジションに走者がいる状況ではなんと19打数10安打、打率.526、これはリーグ1位である。

 だが、ピネラ監督も、さすがにイチローにリーダーとしての役割までは求めていない。メジャー1年目だし、言葉の問題も大きいからだ。

 「イチローについては、とにかくやりやすい環境を整えて、思い切りプレーさせるだけさ」と話している。

 5月に入ると、マリナーズはAL東地区でトップを走るレッドソックスが相手。メジャーのナンバー1投手ペドロ・マルチネス、復活した野茂英雄と楽しみな対戦が続く。その後もやはり好調のブルージェイズが相手だ。果たして寡黙軍団はリーダー不在でどこまで突っ走り続けるのだろうか?

イチロー
シアトル・マリナーズ

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