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投手のドラマが生まれない時代。 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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posted2008/04/22 00:00

 タイガースの金本知憲が4月12日のベイスターズ戦で今シーズン13本目のヒットを打ち、通算2000本安打を達成した。

 2000本安打の達成者は、通算3085本の張本勲を筆頭に、これで37人になったが、2000年代になってからは、秋山幸二、駒田徳広、立浪和義、清原和博、古田敦也、野村謙二郎、石井琢朗、田中幸雄、前田智徳についで10人目である。プロ野球の歴史は今年で73年目だが、この記録はその歴史とともに順調に積み重ねられているといっていいだろう。

 また、金本につづく選手も、去年まで1779本の堀幸一を先頭に、1500本以上を打っている選手が、小久保裕紀、小笠原道大、中村紀洋など8人も控えているから、今後も途切れる心配はない。

 しかし、200勝投手ということになると、どうなのだろう。

 現在、200勝の達成者は、400勝の金田正一を筆頭に23人いるが、2000年代になってからは工藤公康1人で、90年代までさかのぼっても北別府学のほかは見当たらない。

 また、工藤のあとに続く選手も、去年まで193勝の山本昌がいるが、それにつぐのは151勝の西口文也、つぎが117勝の三浦大輔だから、山本昌が達成できなければ当分のあいだ達成者は出ないことになって、ひょっとすると、工藤が最後の200勝投手ということになる可能性もあるのである。

 だからどうした、という人もいるかもしれない。野手は昔と変わらずに全試合に出場するが、投手は昔とちがって中6日のローテーションで投げ、シーズンに25回程度しか先発しないのだから当然ではないかと。

 たしかにそのとおりなのである。昔のエースは、中3日で先発したうえにリリーフもこなして20勝するのがあたりまえだったが、いまの中6日では13勝から15勝するのがせいぜいだ。工藤は今年で実働27年目だが、200勝するのに23年かかり、山本昌は23年目でまだ7勝足りない。つまり現在の野球では、20年では200勝できないのである。

 しかし、昔の野球を知るぼくには、それでいいのかという思いが拭いきれない。野球はチームの勝敗を競うスポーツだが、個人記録のスポーツでもあるからだ。

 投手の記録には、通算勝利のほかに、完投、完封、奪三振など、さまざまな個人記録がある。そして、それらを見れば、73年のプロ野球の歴史の中で誰がどの程度はたらいて、どのあたりにランクされる投手なのかがひと目で分かるようになっているのである。

 しかし、現在の野球では、中6日のローテーションばかりでなく、先発とリリーフの分業がすすんで完投する投手は滅多にいなくなっているから、いずれの部門でも歴代30位以内にはいる投手は生まれないだろう。

 4月10日には、ダルビッシュ有と岩隈久志がともに完投して、ダルビッシュが1対0で完封するという投手戦があったが、昔はいくらでもあったこういう試合もいまはほとんど見られない。去年の日本シリーズで、ドラゴンズの山井大介が8回までパーフェクトピッチングをつづけていたのに、9回に岩瀬仁紀が出てきたのがいい例だ。

 もう投手が主人公のドラマは生まれないのである。野球がどこか醒めたものになり、熱狂から遠くなっているのも、こうしたことと無関係ではないような気がする。

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