佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER

佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 12 ドイツGP 

text by

西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

PROFILE

photograph byMamoru Atsuta

posted2004/07/30 00:00

佐藤琢磨 グランプリに挑む Round 12 ドイツGP<Number Web> photograph by Mamoru Atsuta

 「戦い終えて、いつもより険しい顔をしてパドックを歩いて来る佐藤琢磨に「苦しかったみたいですね」と声をかけると「ハンズがベルトから落ちちゃってねぇ。詳しくは後で……」と言い残し、BARチームのトレーラーの中に消えた。顔面うっすらと汗で汚れているようにも見え、ただならぬ雰囲気が残った。

 数十分後、キャップをかぶり、半袖のチームウェアとジーンズに着替え、さっきとはうってかわってこざっぱりとした佐藤琢磨の話を聞いて凍った。

 首の痛み止めの注射をして来たというのだ。

 ハンズ(HANS=ヘッドアンドネックサポート=頭頚部保護器具)は、クラッシュなどで激しい前後方向へのG(重量加速度)を受けた時、首が伸びないように保護するカーボンファイバー製器具で、上方から見ると“U”字、横から見ると“L”字形をしている。それを首から肩に回すようにして装着し、上からシートベルトで固定する。また、ハンズはヘルメットとストラップでつないである。

 琢磨によれば、レース開始直後からまず左側ベルトからハンズがはずれ始め、それを直そうといったんシートベルトをゆるめたり、締め直したりしていたが、はかばかしくない。やがてハンズは横(右)を向き始めた。つれてヘルメットが右に引っ張られ、視界が奪われコーナーの内側が見えなくなったという。せっかく6位まで浮上しながら、スピンしてしまったのはこのせいである。

 レース中にシートベルトをいじっているようでは戦う以前の問題。よくぞフィニッシュし、得点できたものと思う。F1は6点式シートベルトでがんじがらめにドライバーをシートにくくりつけておかないと、前後横方向のGを受けた時コクピット内で浮いてしまう。琢磨は空中浮遊しそうになる己が身体を、ステアリングに押し付けるようにして支えた。そんな無理な態勢を取り続ければ身体のどこかにストレスがかかる。それにシートベルトの位置や締め具合もおかしいのだから肩や首が痛くてしょうがないはずだ。トップアスリート琢磨といえど、ものには限度がある。

 そういえば、13位からスタートして2位になったバトンもレース中ヘルメットに異常をきたした。ストラップがゆるんで、ストレートにさしかかるとヘルメットが浮いてしまうのだ。そのためバトンは左手でヘルメットを支えながら走った。

 佐藤琢磨の首の痛みは第3戦バーレーンから始まっていたのだという。身体のケア、そしてハンズのしっかりしたセットアップが、この2周間の夏休みに佐藤琢磨に課せられた“宿題”だろう。

 F1はハンガリーまでの間、しばしテスト禁止期間に入る。

F1の前後の記事

ページトップ