MLB Column from USABACK NUMBER

ローウェル・スピナーズのヤンキース「根絶やし」作戦 

text by

李啓充

李啓充Kaechoong Lee

PROFILE

photograph byGettyimages/AFLO

posted2006/02/17 00:00

ローウェル・スピナーズのヤンキース「根絶やし」作戦<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 我が一家がボストンの隣街ニュートンに移り住んで16年になる。その間に、親だけでなく、子供達3人も、筋金入りのレッドソックス・ファンに育ち上がった。しかし、子供達がレッドソックス・ファンになったのが親の影響と言うのは正しくなく、住んでいる土地柄、そうなる以外になかったのである。

 レッドソックス・ファンになるということは、自動的に「ヤンキース嫌い」になることを意味するが、レッドソックス・ファンのヤンキースに対する憎悪は、英語でいうところの「visceral(内蔵的)」な感情と言ってよく、これはもう、「体の奥底に根を張った、意思とか理性では制御できない」感情なのである。だから、もし、何かの事情で、レッドソックス・ファンがヤンキースのユニフォームを着なければならない状況に陥ったとしたら、それは、「拷問」と変わらないほどの苦行となりうるのである。

 実は、私の長男が、まだ小学生だった頃、この「拷問」にかけられたことがある。所属したリトル・リーグのチームが「ヤンキース」だったので、毎試合、ヤンキースのユニフォームを着てプレーしなければならなかったのである。リトル・リーグのチームの名に大リーグのチーム名を借用するのは、アメリカではわりと広く行われている慣行のようで、たとえば、傑作野球映画『がんばれ!ベアーズ』(1976年)でも、出てくるチームの名は、ベアーズ以外はみな大リーグのチーム名を借りたものだった。

 もちろん、ベアーズの敵(かたき)役となる強豪チームはヤンキースで、「悪役」に一番ふさわしい名を与えられていた。ちなみに、『がんばれ!ベアーズ』は、昨年、名優ビリー・ボブ・ソーントンの主演でリメークが作られたが、新作でも敵役のチームがヤンキースであるのは変わらなかった(ただし、新作はどうしようもない駄作)。

 ところで、旧作でも新作でも、ユニフォーム作りの金を出すスポンサーを探すのは監督の仕事だったが、旧作で、ウォルター・マッソー演じる監督が探し出したスポンサーが「チコの保釈金ローン(Chico's Bail Bonds)」であったギャグは有名で、今でも、ときどき、「チコの保釈金ローン」と書いたTシャツを着る人を街で見かけるほどだ。ちなみに、私の長男の場合、もらったユニフォームはヤンキースのロード用ユニフォームの完璧なコピーで、どこにもスポンサーの名は入っていなかった。

 というわけで、ボストン界隈では、毎年、リトル・リーグで運悪くヤンキースに所属することになってしまった子供達が(そして親達も)、仇敵のユニフォームを着なければならないという「塗炭の苦しみ」を味わっているのだが、2月8日、子供達をこの苦しみから救う、「白馬の騎士」が現れた。

 レッドソックス傘下のシングルAチーム、ローウェル・スピナーズが、「リトル・リーグでヤンキースのユニフォームを着ることになった可哀相な子供達。スピナーズがスポンサーになってユニフォームを替えてあげましょう」というキャンペーンを始めたのである。スピナーズの目標は、マサチューセッツ始めニューイングランド中のリトル・リーグからヤンキースを根絶やしにすることであると言うが、替わりに提供するユニフォームがスピナーズのユニフォームであることは言うまでもない。

MLBの前後の記事

ページトップ