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プレミアを盛り上げる、
もう一つのエンターテインメント。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2008/01/17 00:00

プレミアを盛り上げる、もう一つのエンターテインメント。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 クリスマスから年始にかけてのプレミアシップは、2週間で5試合を消化。例年通りの過密日程を終え、シーズンは後半戦に突入した。ビジネスの巨大化に伴う客層の変化から、スタンドの“デシベル(ファンの熱気)”が低下しているとも言われるが、年末年始の試合会場には“イングランドらしさ”が漂っていた。ホリデーの時期に客席を埋めるのは、スポンサー企業の招待客ではなく、純然たるサポーター連中だからだ。

 イングリッシュ・フットボールの魅力の1つは、サポーターが繰り出すチャント(応援歌)にある。応援団長がいるわけでもなく、自然発生的に歌われる数々のチャント。ピッチ上で展開されるプレーの迫力と共に、スタジアムの雰囲気にも魅せられている筆者は、試合観戦の度に、「どんなチャントが聞けるのか」と楽しみにしている。

 たとえば、クリスマス直前に行われたアーセナル対トットナムの北ロンドン・ダービーでは、トットナム・ファンが、いきなり『F**k off to the south(南に帰りやがれ)!』と煽り始めた。地元の宿敵同士である両軍の仲の悪さはご承知の通り。トットナム側は、アーセナルがロンドン南東部のウリッジに起源を持つことから、「自分たちこそが北ロンドンの盟主だ」という意を込めて歌ったわけだ。若いサポーターまでもが、120年以上も昔の事実に根ざしたチャントを当たり前のように歌うのだから大したものだ。

 もっともチャントの最大の魅力は、伝統の継承というよりは即興性にあると筆者は思っている。思わずニヤリとさせられたのは、元日のアーセナル対ウェストハム戦で耳にした両軍ファンのやり取りだ。前半20分足らずで0−2とされたウェストハム側は、何とかして一矢を報いようと必死。片やアーセナル側はホームゲームでの勝利を確信し、余裕の観戦を決め込んでいた。

 そこでアウェー・スタンドから沸き起こったのが、『Sit down if you love Tottenham(トットナム好きは席に着け)!』の合唱だった。ウェストハム・サポーターは、アーセナル・サポーターがよく口にする『Stand up if you hate Tottenham(トットナム嫌いは立ち上がれ)』という定番の歌詞を変え、自席で静観していた6万人近いアーセナル・ファンを、彼らが毛嫌いするトットナムのファンに仕立てあげたわけだ。するとホーム・スタンド側に陣取るアーセナル・ファンは、『You need more foreigners(外国人選手の数を増やした方がいいぞ)!』と斬り返す。外国人選手が多すぎると非難されている状況を逆手に取ったチャントは、これまたお見事だった。

 気転が利く“合唱団”は、ピッチ外の事件にもすばやく反応してみせる。その点で一番ホットな“ネタ”になりそうなのが、クラブのクリスマス・パーティーで、婦女暴行容疑をかけられたマンチェスター・ユナイテッドの若手DF、ジョニー・エバンズだ。レンタル移籍(2度目)が決まったサンダーランドでピッチに立つことがあれば、チャントの常套句の一つである『We'll score in a minute(すぐに1発お見舞いしてやる)』を捩った、『You'll only score in a hotel(1発決められるのはホテルでだけ)』という歌詞で、やり込められるに違いない。

 さてシーズン後半は、優勝争いと並んで残留争いも見所となる。降格圏(18〜20位)付近のチームは、対戦相手のファンから『Going down, going down, going down!』と野次られるのが常だ。「(お前らは)落ちていくんだ」という、当事者にすれば「余計なお世話」としか言いようのないチャントは、国際大会でイングランド・ファンが「イン・グァー・ランド、イン・グァー・ランド!」と連呼する際と同じように、独特なメロディーに乗せて歌われる。

 2シーズン前のタイン・ウィア(イングランド北東部)ダービーでは、このチャントに対する当意即妙な返答を耳にした。ダントツで最下位だったサンダーランドのファンが、「落ちていくぞ」と嵩にかかって歌うニューカッスル・ファンに向かって、『So are we, so are we, so are we(ああ、そうとも。その通りさ!)』と歌い返したのだ。その臨機応変ぶり、苦境にも萎えないユーモアのセンス、そして地元ライバルの“古豪”に対するやけっぱちにも似た反感と、3拍子揃った最高の反撃チャントだった。

 スタンドの観衆も魅力の一端を担うプレミアシップ。それぞれ17位と11位で新年を迎えたサンダーランドとニューカッスルは、終盤の4月19日に顔を合わせる。チャントという名の、スタジアムで繰り広げられるもう一つのエンターテインメント。後半戦の盛り上がりにも乞うご期待!

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