MLB Column from USABACK NUMBER

グラディ・リトルの「呪い」 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2004/07/22 00:00

グラディ・リトルの「呪い」<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 レッドソックスが1918年以降ワールドシリーズに優勝していないこと、そして、この1918年という数字が、長年、レッドソックスを野次る決まり文句として使われてきたことは、読者もよくご存知だろう。レッドソックスがチャンスやピンチを迎える度に、相手チームのファンは「19・18(ナインティーン・エイティーン)」と野次り、「1918年を最後に優勝していないお前たちは、また負けるに決まっている」と嘲るのである。

 昨季のア・リーグ選手権も、レッドソックスは、「アウトあと5つ」までせまりながら宿敵ヤンキースに敗れてしまった。敗因が、グラディ・リトル監督の継投ミスにあったことは読者もよくご記憶のとおりで、レッドソックス・ファンの間では、リトルは、8回のピンチに、エース、ペドロ・マルティネスを続投させてヤンキースの反撃を許した「戦犯」とされている。

 この第7戦の試合前、GMのテオ・エプスタインは、「マルティネスは7回を越えた後の防御率が著しく悪くなる」とリトルにデータを見せ、継投の時期を失しないよう、念を押していたという。指示を無視して頑なにマルティネスを続投させたことがフロントの怒りを買い、リトルは解雇されてしまったのだが、2年連続でチームを優勝争いに導いた功績を無視され、たった一回の継投ミスを理由に解雇されたリトルは、「幽霊になってレッドソックスに祟ってやる」と、恨んだのだった。

 かくして、リトルの采配ミスは、86年ワールドシリーズ第6戦のビル・バックナー一塁手のサヨナラ・トンネルに匹敵する「チョンボ」として、レッドソックスの悲劇(喜劇?)の歴史に大きな足跡を刻むことになったのだが、7月10日、この歴史的「チョンボ」を記念して、リトルの「腕振り」人形が発売されることになった。

 発売を決めたのは、独立リーグのブロックトン・ロックス(ボストン近郊を本拠地としているがレッドソックスとは何の関係もない)だが、「首振り」人形ではなく「腕振り」人形がプロモーションに使われるのは今回が初めてではないだろうか。そして、なぜ、リトルの人形が「首振り」ではく「腕振り」になっているかというと、右腕を振って左腕を指し示す「左腕投手への交替」を指示する仕草で、「リトルが昨年のプレーオフでこの腕振り人形の仕草をしていたらレッドソックスは勝っていたのに」ということを暗示しているのである。

 ロックスが「腕振り人形」をプロモーションに使う計画を発表した当初は「趣味が悪い」と評判が悪く、プロモーションは中止に追い込まれてしまった。しかし、今回は、リトル本人の承諾を得、晴れて販売の運びとなったのである。

 リトルは売り上げの半分を慈善事業に寄付することを販売許可の条件としたが、人形の値段はリトルの意向をいれて、$38.36に設定された。なぜ、こんな中途半端な値段をと読者は思われるかも知れないが、$38.36の半分は「$19.18」になると言ったら、値段の数字に込められたリトルの思いがお分かりいただけるのではないだろうか?

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