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From:コペンハーゲン(デンマーク)「おとぎの国でうっとり」 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byShigeki Sugiyama

posted2004/09/15 00:00

From:コペンハーゲン(デンマーク)「おとぎの国でうっとり」<Number Web> photograph by Shigeki Sugiyama

欧州大陸を北上し、寒いコペンハーゲンへ。

アテネの太陽が恋しいけれど、ノーシュラン戦

で目にした、少しもの悲しい風景も悪くはない。

 バルセロナからアムス、ロッテを経てふらっとコペンハーゲンにやってきた。スペイン、オランダ、デンマーク。欧州大陸を縦に北上すると、気温もそれに伴い低下する。サマーセーターの上に、非常用に持参した薄手のブルゾンを着てもまだ寒く感じる。なのにこっちの人はずいぶん薄着だ。いまだタンクトップ姿で肌を露出する威勢の良いお嬢さんもいる。そりゃそれで、結構なことだと思う反面、もう少しお洒落は季節に敏感でいて下さいよと忠告の一つもしたくなる。夏の短い国の人にとって、夏は過ぎ去って欲しくない名残惜しい季節なんだろう。彼らには彼らの立場がある。そう考えると、今度は四季のバランスに恵まれた日本人の基準に物事を全てを照らして考えてはいけませんと戒める自分も登場する。頭は混沌としてしまうわけだけれど、一つ確実に言えるのは、こっちの人と日本人とでは体感気温に違いがあることだ。

 欧州行きの飛行機を乗り比べると、それはハッキリする。ルフトハンザやKLMは、JALや全日空に比べて機内の温度がとても低い。ある時、機内の寒さに耐えかねてスチュワーデスに訊ねてみれば、北の方に住む外人さんは、日本人に比べて体温が高いのだという。ドイツ人やオランダ人が、真冬のスタジアムに、日本では考えられない薄着で出かけていく理由でもある。

 だから僕は、いまアテネ五輪が懐かしくてしょうがない。あの真夏の太陽が。終わったのは2週間前なのに、季節は2ヶ月以上も進んでしまったようである。僕がよく足を運んだ競泳会場とはとりわけ大きな落差がある。柴田亜衣選手が金メダルを獲得した800m自由形などは、いつまでも脳裏に焼き付けておきたいレースだが、いまや日に日に遠く感じられるようになっているし、その会場で、レースとレースの間に流れていたアラビック音楽もしかりだ。軽快感とスリルとリラックス感とが一帯となったその耳障りの良いリミックスが、鼻歌として蘇ってくる機会は減っている。ユーロ2004に至っては、もう半年以上も前の出来事のように思えてくる。

 つまり、長かった今年の夏も終わり、秋がやってきたと言うわけだ。本日、コペンハーゲンの日中の最高気温は18度。僕は、哀愁をたっぷり感じながら、コペンハーゲンから電車で約40分の距離にあるファルムという商店街さえない小さな街に行ってきた。ノーシュラン対エスビア戦を見るために。冷たい風がビュービュー吹く中、雨が降ったり、突然晴れたり……。そんな中で、お目当ての川口能活選手は、ベンチの真ん中で終始腰を掛けたままだった。でも僕は、少しもガッカリしなかった。羨ましい気持ちにさえなった。

 ノーシュランというクラブは完璧な総合スポーツクラブだ。テニス、スカッシュ、水泳……にオージーボールまである。1999年に出来たピカピカのスタンドも、収容人員は1万人と小振りながら、とても快適に観戦できる。4つ星のホテルまで併設されている。素晴らしい環境だった。クラブの理想的な姿を見る気がした。

 周囲の家並みがまた良いのだ。どの家も綺麗な庭付きの一戸建てで、軒下には、薪が積んであったりする。だから屋根には煙突がある。少し歩けば深々とした森もある。おとぎの国にでも来てしまったかのような非現実的な世界が広がっている。試合後、美味しい空気をたっぷり吸い込みながら駅までてくてく歩いていると、後ろから歩いてきた女性に突然声を掛けられた。「あーゆーじゃぱにーず?」。「いえす」と答えてしまったばっかりに、その東京在住、浦和レッズファンで川口能活ファンという女性から、抑揚に欠ける違和感たっぷりの話を聞かされるハメになった。「試合ショボかったですね。レベル低いですね。浦和レッズの方が……日本人の方が……こんなところでプレーしてないで、日本に帰ってくれば良いのに」。

 ここでそんなベタな感想は聞きたくなかった。せっかくはるばるここまで来たというのに、もうちょっと違った感想は湧かないワケ? と言うわけで、僕は帰りの車内で「ipod」の中に収めてある自作のコンピレーション、題して「アテネ五輪2004」をお口直しにフルボリュームで聞いた。「バング&オルフセン社」のイヤホンを耳に突っ込み、そして、車窓に広がるデンマークの少しもの悲しいビジュアルにうっとり目を懲らした。

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