MLB Column from WestBACK NUMBER

新人王レースをリードする、無邪気な24歳。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byYasushi Kikuchi

posted2006/07/28 00:00

新人王レースをリードする、無邪気な24歳。<Number Web> photograph by Yasushi Kikuchi

 今シーズン開幕後最初のコラムで、日本で活躍した助っ人外人2選手の息子たちを取り上げたのを記憶されているだろうか。その1人ブルワーズのプリンス・フィールダー選手は、ここまで新人部門で最多本塁打を放ち、もう1人ジョッシュ・バーフィールド選手も3割近い打率を残す活躍をみせている。

 それにしても、今年の新人はかなりの精鋭揃いといえるだろう。オールスター戦に3選手(ジョナサン・パペルボン投手、フランシスコ・リリアーノ投手、ダン・アグラ選手)が選出されたことでも明らかだ。この他にもチームの主力として活躍する選手が少なくなく、好成績を残している城島健司選手や斉藤隆投手の存在もかすんでしまう状況だ。さらに前回紹介したウィーバー兄弟の弟ジェレッドが再昇格してからも無傷の7連勝を続けており、シーズン途中のメジャー昇格ながら新人王レースに躍り出た感がある。

 そしてナ・リーグでも、最近になって同レースに急浮上してきた男がいる。斉藤投手のチームメイト、アンドレ・エシアー選手だ。開幕直後から故障者続出で5月2日に補充外野手としてメジャー初昇格。昇格当初はなかなか活躍できなかったものの、走攻守揃った選手として徐々に頭角を現し、7月に入ると正左翼手の座を確保。本来のレギュラーだったリッキー・レデー選手が復帰した現在でも、クリーンナップを打ち続ける。昇格後あっという間にクローザーに登り詰めた斉藤投手同様、すっかり“シンデレラ・ストーリー”を体現している。

 このオフにトレードでドジャースに移籍。それまでアスレチックスのマイナー組織に所属し、昨年3Aで4試合出場したのが最高だった。そんな24歳が、現在では新人部門で打率、出塁率、長打率で首位を走っている。特に打率.349(7月25日現在)は規定打席に達していないが、リーグでも単独2位(1位のサンチェス選手にわずか2厘差)にランクするほどの好成績だ。後半戦に入っても勢いが衰える様子がなく、このまま好調を維持すれば間違いなく新人王の有力候補となるのは間違いないところだ。

 先日ドジャース取材の際、エシアー選手を直撃してきたので紹介しよう。

──ここまで自分の成績に正直驚いてない?

 「そうだね(笑)。メジャーは野球選手にとって最高のステージだから成功するのは難しい。でも僕のようなルーキーは相手チームがどんな選手か把握できてないのでは。でも確かに自分でも凄い成績だと思う」

──どうしてこんなに早くメジャーに適応できたと思う?

 「どんな若い選手たちも身体的な部分や技術的な部分ではある程度のものを持っていると思う。あとは精神的なタフさが大事だと思う。とにかく僕は、自分がこのレベルでプレーできると信じ続けている。メジャーに昇格した日から決して弱音を吐いたりしないようにしている」

──いうまでもなく好調が続いているけれど、やはり新人王を意識したりするものか?

 「とんでもない(笑)。とにかくシーズンは長いし、何が起こるかわからないだろ。このリーグには多くの才能溢れる新人選手がいるからね。今の目標は少しでも長くメジャーに残ることだけだよ。確かに受賞できれば自分の選手生命にとって大きな達成だとは思うけど、自分はそれ以上にケニー・ロフトンのように少しでも長くメジャーで成功したい」

──シーズン後半戦の目標は何?

 「とにかく楽しむことかな。新人選手に限らず、どんなベテラン選手だって困難な時期を迎えるものだ。そんな時、ちょっと冷静になって自分を見つめ直して、すべての経験を楽しむようにしたい。もちろん毎試合真剣に取り組むのは当然だけど、試合を楽しむという心を忘れないようにしたい。個人的な数字も気にしていない。とにかくチームが勝つために一生懸命プレーするし、それを人に認めてもらえるのが最高だね」

 写真で見せている屈託のない表情からも窺えるとおり、純粋な野球少年がそのまま成長してきたような男だ。実は、メジャー昇格後最初のサンフランシスコ遠征で、斉藤投手に買ったばかりのデジカメを見せびらかし、「いいカメラだろ?これで母親や奥さんとカメラの奪い合いをしなくてすむよ」と笑顔を振りまいていた様子を見て、メジャー選手“らしくない”純真さに新鮮さを感じるとともに、いつかコラムで取り上げたいと目をつけていたのだ。ちなみに、このエシアー選手だが、現在斉藤投手のニックネームとして使われている“Sammy”の名付け親でもある。

 「タカシでも難しくないけど、サミー・ソーサみたいで格好いいだろ?」

 とにかく無邪気な男なのだ……。

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