MLB Column from USABACK NUMBER

新旧野球セオリーの対決 3 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGettyimages/AFLO

posted2004/06/21 00:00

新旧野球セオリーの対決 3<Number Web> photograph by Gettyimages/AFLO

 前回、「サイン違いでバントを決めたローレンはカージナルスでヒーロー扱いされたが、バントが禁止されているも同然の新思考派のチームではヒーロー扱いなどされないだろう」という意味のことを書いたが、私の書いた通りのことがレッドソックスで起こったので紹介しよう。

 6月1日の対エンジェルス戦、4対6と2点リードされた7回表、無死一・二塁で打席に立ったドーバックが自分の判断で送りバントを試みた。結果は見送りのボールだったが、突然のバントの構えに塁を飛び出した二塁走者のラミレスが捕手からの牽制球でアウト、ドーバックがバントを試みたせいで折角のチャンスが潰されてしまったのだった。

 ダグアウトに戻ったドーバックをつかまえて監督のフランコーナが恐い顔で説教しているシーンをテレビ・カメラがとらえたが、フランコーナは「バントは無意味」とする新思考派の頭目的存在だけに、バント「禁止」のチームの方針を無視してチャンスを潰したトーバックに怒ったのも無理はない。ドーバックは翌日から先発メンバーをはずされた挙げ句に、6月10日にはマイナーに落とされてしまった。

 ドーバックがマイナーに落とされた翌日の6月11日、ドジャースが初めてフェンウェイ・パークを訪れた歴史的試合を観客席から観戦したが、この試合でも、守旧派と新思考派のバントを巡る考えの違いが際立った。

 1対1の同点で迎えた9回裏、先頭打者のデーモンが歩いて無死一塁となった場面だ。次打者は二番打者ベルホーンとあって、私の隣の席では、守旧派の「常識」を代弁するかのように、父親が子どもに、「ここはなぜバントしなければいけないか」を説明し始めた。「最終回同点で無死一塁、しかも後に控える打者が三番、四番だからバントで決まり」というわけだ。この「常識」に従って三塁手のベルトレも守備位置を前にとった。

 しかし、私は、「新思考派のレッドソックスは絶対にバントしない」と確信していた。なぜなら、レッドソックスは、今シーズンのチーム・バント数がわずかに4とダントツの大リーグ最下位であることが示すように、新思考派のチームの中でもとりわけバントを嫌っているからだ。アストロズの二番打者エベレットの18回を筆頭に、何と28人もの選手がレッドソックスのチーム全体よりも多い5回以上のバントをしているほどなのである。おまけにベルホーンは出塁率が4割近くと「アウトになりにくい」打者であり、バントで自分からアウトを進呈するなど、フランコーナがするはずがなかった。

 案の定、ベルホーンは打ちにいったが、2ストライクとなった時点で、隣の席の父親は「何でバントをしないのだ!」と憤慨するし、三塁手のベルトレは「理解できない」とばかりに首を降りながら定位置に戻っていった。結果はベルホーンに二塁打が出た後、次打者のオーティースのヒットでレッドソックスがサヨナラ勝ち、監督のフランコーナにしてみれば、「してやったり」だったろう。

「無死一塁から得点が入る確率と一死二塁から得点が入る確率を比較すると無死一塁からの方が高い。なぜわざわざバントをしてまで、より得点が入りにくい状況をつくるのか」というのが新思考派の主張であり、フランコーナにすれば「理の当然」の戦術だったのである。

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