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チーム、選手、監督、それぞれの戦い。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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posted2006/03/14 00:00

チーム、選手、監督、それぞれの戦い。<Number Web> photograph by AFLO

 レアル・マドリーが敗れた。紙一重の差でアーセナルの軍門に下った。ラウールが終盤連続して放ったシュートが決まっていれば、試合はその瞬間、振り出しに戻っていた。1本目はポスト。2本目はその跳ね返りをそのまま叩いたものだ。1本目も惜しかったが、2本目はもっと惜しかった。1本目のシュートに反応し、倒れ込んでいたGKレーマンが、瞬間まさかその手を伸ばしてこようとは。見るもの全てを唖然とさせる超スーパーセーブが、ラウールのチャンピオンズリーグ通算52ゴール目を阻んだ。と同時に、彼をチャンピオンズリーグのリーディングスコアラーの座から転落させた。

 その座を奪取したウクライナ代表のセンタフォワードは、一度そのチャンスを逃していた。対バイエルン戦。シェフチェンコはPKを外している。だが、オリバー・カーンが一度人間離れした雄叫びをあげたその数分後だった。今度は、鮮やかに通算52ゴール目の得点を叩き出すことに成功。ミランをベスト8に導くとともに、欧州ナンバーワンストライカーの座に躍り出た。

 シェフチェンコがラウールを抜くことは、あらかじめ予想されていた。近年、得点が伸び悩むラウールに対し、シェフチェンコは快調に得点を重ねていた。今が旬のシェフチェンコに対し、下り坂にさしかかったラウール。多くの人が、ゴールを逃したラウールの背中に哀愁を感じたはずだ。チャンピオンズリーグの出場試合記録で、100を超える選手は彼一人。真の実力者しか、回数を重ねることが出来ないこの記録は、いまや代表Aマッチ出場試合数よりステイタスのある記録として認知されている。そのナンバーワン選手がラウールだというわけだ。

 讃えたくなるのはそればかりではない。シェフチェンコを本格ストライカーとすれば、ラウールはセカンドストライカーだ。左のサイドハーフを務めた経験もある。にもかかわらず過去に51ゴールを叩き出している。2試合に1ゴールのペースは、本格ストライカー顔負けの数字だ。下り坂にさしかかったいま、改めて、かつて刻んだハイペースが偲ばれる。にもかかわらず、彼は“バロンドール”を獲得していない。最も可能性のあった'01年も、オーウェンにさらわれている。理不尽といっても過言ではない扱いをラウールは受けている。何とかしてあげたい選手だ。

 シェフチェンコとラウール。そしてマドリーとミランも激しいつばぜり合いを演じていた。UEFAクラブランキングだ。今季のスタート時点では、レアル・マドリーが首位の座を維持していた。だがミランの足音は、確実に迫っていた。'02年以来、優勝から遠ざかっているマドリー。逆にミランは'03年優勝、'05年準優勝と、マドリーに対し優位な成績を収めていた。そして今季の途中、ミランはマドリーを逆転。銀河系軍団は長年守ってきた首位の座から陥落していた。だが、その差はわずか。1試合の成績でひっくり返る関係にあった。そういう意味では、両者にとって決勝トーナメント1回戦は天王山の戦いだった。

 だが、首位に立ったミランは、マドリーが舞台から去ったといって安心するわけにはいかない。バルセロナも負けじとポイントを伸ばしている。これも1試合の勝ち負けで、逆転する競った関係にある。次戦、準々決勝の相手はミランがリヨン。バルセロナはベンフィカだ。組み合わせは、追っ手有利。欧州クラブナンバーワン争いは、目が離せない状況だ。

 カーンとレーマンの争いも同様だ。決勝トーナメント1回戦のセカンドレグで、カーンはミランに4ゴールを許した。せめてもの救いは、シェフチェンコのPKを止めたことだが、ラウールのゴールを防いだレーマンには断然劣る。ドイツ代表の正GK争いに、これがどんな影響を与えるか。並の試合ではない欧州中が注目する一戦の明暗であるだけに、カーンの苦戦は否めない。

 監督では、現リバプール監督と前リバプールの監督が明暗を分けた。現監督はクーマン監督率いるベンフィカに敗れ、前監督はヒディンク率いるPSVに勝利した。リバプールはベニーテスが新監督に就任するや、チャンピオンズリーグ優勝の偉業を達成した。ベスト8が精一杯だった前監督ウリエにとって、これほど面白くない話はないはずだ。自分が辞めた途端、前チームが優勝した。監督としてベニーテスに劣ることが、世に知らされた格好である。ウリエは今頃、リバプールの上に躍り出た現在のポジションに、一人ホッと胸をなで下ろしているに違いない。準々決勝のミラン戦に勝てばベスト4。自己最高位に到達する。

 次戦の準々決勝では、ライカールト対クーマンのオランダ人対決も見物だ。ともに元オランダ代表で、活躍した時期も重なるいわば元チームメイトだ。'88年の欧州選手権西ドイツ大会では、ともにセンターバックとしてオランダの優勝に貢献した。FCバルセロナの一員としては、クーマンの方が先輩になる。ドリームチームと言われたクライフ時代の重鎮プレーヤーで、'92年のチャンピオンズカップ決勝では、決勝ゴールとなるPKを決め、バルサに念願の欧州一のタイトルをもたらしている。また、ファンハール時代には、コーチとして、そのサテライトチームの指揮を執った経験がある。ちなみに前新潟監督の反町さんは、そのチームについて修行に励んだのだが、それはともかく、バルサ戦はクーマンにとって古巣との戦いになる。カンプノウのスタンドは、先日、ファンハールの下で助監督の地位まで上り詰めたモウリーニョに、凄まじいブーイングを浴びせたが、クーマンに対してはどうなのか。あるいは拍手さえ湧くのではないだろうか。相変わらず彼は「次期監督」の有力候補だ。もしライカールトがへまをやらかせば、来シーズンはクーマン監督が誕生する可能性もある、とは思わないけれど……。チャンピオンズリーグには、様々なVS関係が溢れかえっている。

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