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レアルがハノーバーにやってきた。 

text by

安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byMutsu Kawamori

posted2007/08/14 00:00

レアルがハノーバーにやってきた。<Number Web> photograph by Mutsu Kawamori

 レアル・マドリードが7月末、ドイツで親善試合を行なった。相手はハノーバー96。これといった実績もネームバリューもない凡庸なチームである。横綱対平幕の戦いではあるが、カシージャス、カンナバーロ、ディアラ、ラウールらスター選手が出場した横綱レアルは、平幕のハノーバーに0−3で完敗。レアルの選手はさぞやショックを受けた?それはない。所詮は花相撲なのだから。

 しかしレアルのフロントはホクホク顔である。まず、冷夏のドイツは高温多湿のアジアでやるより格段に選手の体調維持で効果があったこと。そして金銭面。ハノーバーはレアル側に、「飛行機代とホテル代2泊分(アラベラ・シェラトン)を負担する」条件を提示していた。この経費だけで17万ユーロ(約2800万円)である。そして肝心のギャラは100万ユーロ(約1億6200万円)。10数時間かけてサッカーの発展途上国へ行き、時差ぼけ状態で苦労するよりずっと楽な商売だ。

 ハノーバーが支払ったのはこれ以外に、運営と警備費などで15万ユーロ(約2400万円)。なんだかんだ合計したら出費は120万ユーロを楽に超えた。さぞや大赤字に……。とんでもない。スタンドは超満員、VIP席に特別料金を設定し、臨時スポンサーを付け、海外向けの放映権を売ったりしたことで、税引き後の純利益15万ユーロを確保したのだ。

 それにしてもレアルがやってきたというだけで、ハノーバーの町は大騒ぎだった。とにかくドイツで(も)レアルとバルセロナだけは別格の扱いを受ける。ふだんは「アイツら、ちっとも俺たちに勝てないんだぜ」とスペイン代表を小ばかにするドイツの愛国的右派メディアだが、相手がクラブチームとなると途端にトーンダウンして、「あのレアル(バルサ)がやってきた。あのスター選手が」と、まるで子供みたいなハシャギ方になってしまうのだ。

 一昨年、チャンピオンズリーグでバルサと対戦したブレーメンは、ロナウジーニョのユニフォーム欲しさにバルデス、ナウド、オボモエラの3人が、試合前、ハーフタイム、試合後と、それぞれ相手ベンチまで直接頼みに行ったものだ。これじゃ、まるでミーハーファンではないか。

 今回、レアルが特に注目されたのはベルント・シュスター新監督の存在があったことが大きい。ドイツは80年欧州選手権で優勝したが、これはシュスターの存在なしに達成できなかったものと評価されている。将来を大いに嘱望されたシュスターだったのだが大会直後、所属する1FCケルン関係者に年上女房の悪口を言われ続けたことで母国での生活に嫌気が差す。そして20歳の若さでバルセロナへ逃げるようにして移籍。その後はレアル、アトレチコと渡り歩き、現役引退後もスペインサッカーと関わりを続けた。この間、シュスターはドイツとの関係を遮断してしまう。21歳でもはや代表チームに「興味はない」と引退を決めてしまったのは重ね重ね残念であった。

 そういうことがあり、あのスター軍団がハノーバーに降り立っても、メディアの関心は選手よりもむしろシュスターのほうに集まった。マスコミは「バイエルン・ミュンヘン監督就任の噂は事実だったのですか?」「チェルシーのバラックとロッベンはレアルに移籍するのですか?」と次々に質問を飛ばした。

 30年近くこの業界に生きるシュスターは慣れたもので、適当にあしらっていたが、私の知り合いのベテランドイツ人記者は、「彼も、もうちょっとウィットとかジョークが言えたら、この国ですごくうけるんだけどな」とシュスターの冷めた対応を皮肉った。「例えば?」と私が聞き返すと、彼の答えはこういうものだった。

 「ハノーバーの名物は何だい?町中の観光名所を歩いて回れるようにと、地面に描かれた“道案内の赤い線”だろ。俺だったらきっと『それもこれも、すべては赤い糸でつながっていますよ』とでも言ってマスコミを味方にしてしまうけどな(笑)」

 そういえば、シュスターとルンメニゲ会長は80年ユーロで共に戦った仲間、シュスターとヘーネスGMは同じアウグスブルク出身、さらにシュスターに代表復帰を促したのはベッケンバウアー。そしてミヒャエル・バラックの元のチームは……。シュスターとバイエルン・ミュンヘンを結びつける材料がいくらでもある。これこそ赤い糸かもしれない。でも赤い糸って恋愛劇に適用するものだろう。母国と喧嘩別れしたようなシュスターに、そんなロマンチックなテーマは不向きだと思うのだが。

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