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“イタリアへの憧れ”がルカ・トーニ人気に拍車をかける。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images/AFLO

posted2007/07/24 00:00

“イタリアへの憧れ”がルカ・トーニ人気に拍車をかける。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images/AFLO

 タイプライターとOA機器で有名なメーカー「オリベッティ」は15年前に、ノートPC『Quaderno 33』を発表した。マリオ・ベリーニによるデザインは秀逸で、純正の皮ケースに入れて持ち歩くことは当時、誰もが憧れるセレブなシーンだった。製品としては「欠点だらけ」という評判だったが、「どうにも憎めず、可愛げがある」ことからドイツでも人気を博した。

 話題を変えて──。

 イタリアとドイツはオペラ界の双璧だが、同等の立場にはないと言う。「何世紀もの間、イタリアオペラこそが正統派、イタリア音楽こそが最高であるという認識が残っている。イタリアはストーリーの単純さを補って余りある魅力的な曲ばかり。一方、ドイツは宗教的・国民的気風が快楽主義的なオペラという形式自体を嫌った」と専門家は指摘する。

 あの~、ここって確かNumberのコラム欄でしたよね。コラムの執筆先を間違えたのでは?いいえ、間違えておりませんよ。ご安心を(笑)。

 ドイツとイタリアの関係を探ると、ドイツ側にイタリアへの漠然とした憧れの感情が内包されているように思う。それはルネサンス以来の西洋文化と芸術の発祥地が常にイタリアだったという、歴史的先進性への事実からも読み取れる。隠そうとしても無駄だ。ドイツ人はイタリアに尊敬と羨望を抱いているのだ。両者の国民性は何かにつけて正反対である。キッチリvs.いい加減、堅実vs.優雅、粗野vs.華麗。サッカーにもこの対立式が当てはまる。人は自分と対極にある他人に憧れる、というわけだ。

 いま、私の手元に雑誌の表紙に掲載されたルカ・トーニの写真がある。正面を見据えてニッコリと微笑む色男。トッティよりずっと利発そうで、カモラネージやマテラッツィの下品さとも無縁。目鼻立ち、雰囲気、どれをとっても絵になる。トーニがモデルになってくれたら、彫刻だろうが絵画だろうが、きっといい作品に仕上がるに違いない。

 このトーニが目下、ミュンヘンの女性ファンを虜にしている。伊流の大スター“ルカ様”目当てに練習場は連日超満員。彼女たちのワーワー、キャーキャーの嬌声は、実直一辺倒のドイツサッカーに異次元の刺激を与える。

 トーニの身長は1メートル94。これくらいの大男、ドイツだったらいくらでもいる。ただし、無骨・無愛想・そして悪人面(失礼!)だから、絶対に人気は出ない。ブンデスリーガの人気を盛り上げるためにも、トーニにはぜひとも大活躍してもらいたいものである。いや、恐らく彼は新シーズン、相当にやってくれるはずだ。

 7月の練習試合、トーニは高いパフォーマンスを見せた。長身ゆえ、足元のボールコントロールに難があると見られていたが、ペナルティエリア内での鋭い動きはこれまでの批判を吹き飛ばす内容だった。そして得意のヘディングでは、強さと正確さがチームメイトを驚かせた。強靭な肉体もドイツサッカーにはもってこいである。

 なによりもファンを喜ばせたのは、新規入団のクローゼとリベリーとのトライアングルだった。まるで長年一緒にやっているかのように息が合っていたのである。これはトーニがこの国のサッカーに問題なく溶け込んでいる証拠だ。断言する。トーニは間違いなく今季、リーガの目玉になるだろう。

 そういうわけで、ドイツ人の意識の奥深くに潜むイタリアへの憧れ、イタリア的可愛さへの愛情が、トーニの出現でいつ爆発するか、私は興味深く見守っていくつもりだ。

 ところで、イタリアを題材にしたドイツ人の作品がもう1つあるのを思い出した。トーマス・マンの『ベニスに死す』だ。筋書きはこうだ。「ミュンヘンに住む作家が執筆に疲れ、旅に出た。到着したのはベニス。滞在先のホテルで作家は10代の美少年を見つけるや、この少年に恋をしてしまう。やがて作家は少年のあとをつけたり、家族の部屋を覗き込むようになった」。作家は最後にコレラで死んでしまうのだが、この恋する少年というのはイタリア人ではない。ポーランド人なのである。

 イタリアとドイツの関係をちょっと強引に解きほぐしてみたが、ここにポーランドとミュンヘンが絡むと、どうしたって、ドイツW杯でも2トップを組んだ、バイエルンのポーランド系FW、クローゼとポドルスキーを連想してしまう。

 サッカーを文化の一面と捉えるだけでも、バイエルンというチームがとてつもなく愉快な存在に思えてくる。それもこれも、トーニのおかげだ。やはり色男って、面白い話題を呼ぶ存在なのである。

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