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『FCハリウッド』なんて言うヤツには気をつけろ 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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posted2006/02/03 00:00

『FCハリウッド』なんて言うヤツには気をつけろ<Number Web> photograph by AFLO

 先週、バイエルンのクラブオフィスで70年代の得点王ゲルト・ミュラーと話す機会を持った。昨年に還暦を迎えたミュラーは毎朝8時に出勤、終日ここで過ごす生活を送っている。アマチュアチームのアシスタントコーチが仕事だ。ミュラーは現役時代同様、60歳になった今でも目がギラギラ輝いていた。

 「どうやったらゴールが奪えるか?それは臭いだ。点が取れそうな場所とタイミングで臭いを感じることだ」「子供時代の練習方法?ないさ、そんなものは。俺は学校から帰って、毎日道端でサッカーをやってたんだ」「いくら才能があったって、一生懸命に取り組まなければ成功なんてしない。勤勉こそが成功への近道だ」

 早口で、言葉に詰まらない。次から次へと単語が出てくる。身振り手振りはなくて、相手の目をジッとみつめるだけ。なるほど、これが“一途”ということなんだなと合点した。

 ミュラーの人生は波乱万丈である。70年メキシコW杯で得点王となるや、すぐにバルセロナがオファーしてきた。しかし契約寸前のところでこの話を断った。彼の代わりとしてバルサに入団したのは、あのクライフだった。

 30代でアメリカに移籍、しかし帰国後に無職の彼は絶望感から酒に逃れてアルコール依存症に陥る。窮状を知ったかつてのチームメイトがここでミュラーに職を紹介する。「バイエルンで働いてみないか」と誘ったのはベッケンバウアーとヘーネスGMだ。

 バイエルンはいまや黄金時代の只中にある。企業としての発展ぶり、組織として強靭さ、そして合理的経営を追求するあまりに、どこか冷たい印象を与えるかもしれないが、実態は仲間や恩人を大切にするハートフルなクラブである。

 「文房具で品切れはないかい?あったらすぐに持ってくるよ」

 階段の途中で偶然に出会った太った中年男性は、職員とこんな話をかわしていた。彼はクラブの納入業者だった。でも、このオジサン、どこかで見たような…。あれ、74年W杯優勝メンバーのDFシュバルツェンベックじゃないか!彼も引退後、バイエルンに人生を助けられた1人だったのだ。

 マスコミは選手間の争いを面白おかしく演出して、バイエルンを米国映画のドタバタに連想させて『FCハリウッド』と書きたてる。これを真似て、日本でも一部のメディアや事情をよく知らぬライターが、バカバカしくもこのキャッチフレーズを引用している。

 はっきり言わせてもらおう。バイエルンは決してハリウッドなんかじゃない。緻密な戦略と人の温もりを同時に持ったクラブがどうしてハリウッドなものか。もしも今度、FCハリウッドなどと書いた野郎がいたら、徹底してソイツの知ったかぶりを糾弾したいものである。

 巨額借金を抱えるチームとか、怪しげな石油王やら新興国の政治家やらが札束抱えてオーナーになっている“一寸先が危ない”チームにこそ、こういった渾名を付けてほしいものだ。

 ついでだけど、『寿司ボンバー』なんて安易なネーミングも、そろそろお終いにしようよ。あれって、まったく意味が通じないんですけどね。

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