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喧嘩天国スペイン・リーグ。 

text by

鈴井智彦

鈴井智彦Tomohiko Suzui

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photograph byTomohiko Suzui

posted2005/03/08 00:00

喧嘩天国スペイン・リーグ。<Number Web> photograph by Tomohiko Suzui

 あんなロナウジーニョは初めて。表情豊かなブラジル人だけども、あれほどまで怒りを相手にブツけたのには驚いた。3月1日、エスパニョールとのカタルーニャ・ダービー。あまりの激しさに仲間がなだめるほどだった。楽しくなければフットボールじゃない、これがロナウジーニョのスタイルだ。深刻な状況でも口元は笑っているかのように思える。そのロナウジーニョが、ブチ切れた。見たことのない形相で。

 ユニホームを着てグラウンドに立つと人格が変わる選手がいる。ハンドルを握ると豹変するのと似ている。レアル・マドリーのGKカシージャスもおとなしい雰囲気をかもし出しているけど、試合になると、もうひとりの人格が顔を出す。とくに、チームの調子が悪いときなどは、ひとりノリツッコミで苛々している。

 監督交代を繰り返すほど無残な結果になったシーズン前半戦にあって、カシージャスはピンチをひとりで防いでレアルを救ってきた。そんなとき、TVカメラはカシージャスを狙っていた。ふと、その視線を感じたカシージャスは突然カメラに向かって怒鳴った。「撮ってんじゃねぇ。k*+?¥#」そう、キレていた。さらには、ゴール裏のサポーターが投げ込んだひまわりの種の袋を拾ったと思ったら、封を開けて食べてしまうから、まるでお笑いのコントみたいだ。

 2日、ビジャレアル戦の大久保くんも、スパイクを履いたとたんスイッチが入ったようだった。普段は愛すべき青年だが、グラウンドでは別人。売られた喧嘩は買います。ヤンキー兄ちゃんではないけれど、しょっちゅう口喧嘩している。スペイン語は理解できていないとはいうが、悪い単語はチームメイトという先生が教える。どの外国人も汚い言葉から覚えていくのが慣習で、大久保くんも日本語とのミックスでばんばん相手とコミュニケーションを取っている。ビジャレアルのGKレイナに頭をコツンと突かれたのも、きっと、何か気に障るひと言をお見舞いしたのだろう。これまで海外に飛び出した日本人にはいなかったタイプだ。

 口が先か足が先か。マークされてなんぼのFWエトーは口も足もいける。チェルシー戦でのことだった。ライン際で交錯した相手DFが倒れたのをいいことに勢い余って頭上を跳び越したエトーは、不自然なほど右足を伸ばした。相手の頭に向けて。激怒したDF。すまん、すまんと笑顔で手を差し伸べるエトー。何を企んでいるのだか、見当もつかない。この世界では足を踏んだり肘で顔を殴ったりと、審判の見ていないところでの反則技は日常茶飯事だけれども。過去にも有名なのがある。ゲレーロの太ももにシメオネがスパイクのポイントでマークをくっきり刻んだシーンだ。状況はエトーと同じで、横たわるゲレーロをシメオネは踏み台にしていったから血も噴出するはずだ。明らかに狙っていた。

 ちなみにシーズン前半、ファウルを一番犯したのは、デコだった。ファウルを受けるほうでもベスト3に入るデコだが、彼の放つ雰囲気からしてワースト1なのは意外だった。FCバルセロナがあれほどのボール・キープ率を誇るのも、頷ける。マウロ・シルバにアスンソン、ロベルト・カルロスといい、ブラジル系は削るのもうまい。悪く言えば汚い。中途半端な寄せ方を嫌い、絶えずガツガツやるからカードも頻繁に授かるが、微妙なチャージも憎いほどうまい。

 だから、彼らが機能しないとチーム力は低下する。デコの球捌き、展開力が鈍るとロナウジーニョは中央で勝負をかける。しかし、エスパニョールの壁は厚く、汚かった。ペナルティエリアの外ではほとんど潰しにかかっていたから、ジャルケが退場するのも無理はない流れだった。彼らはバルサに美しくは勝てないことを知っていた。エスパニョールは、カンプ・ノウでの23年ぶりの勝利はかなわなかったが、心のなかではほくそ笑んでいた。ロナウジーニョを苛立たせ、しかもエースと司令塔を欠いての勝ち点1だから。

 スペイン・リーグには、案外わかりやすい好不調のバロメーターがある。喜怒哀楽が激しいから、誰もがいたって単純だったりする。キレる。キレさせる。怒鳴る。削る。裏の顔にも人間味がある。カシージャスは最近ご無沙汰だが。

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