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欧州CL、本当の勝者は誰だったのか 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2008/05/29 00:00

欧州CL、本当の勝者は誰だったのか<Number Web> photograph by Action Images/AFLO

 チェルシーのお膝元、キングスロード沿いのパブで見届けた、チャンピオンズリーグ(以下、CL)決勝。マンチェスター・ユナイテッドのGK、エドウィン・ファン・デル・サールが、ニコラ・アネルカのPKを防いだ途端に店内は閑散とし始める。腰の重い筆者は、惜敗の悔しさを生温くなったビールと一緒に飲み込みながら、友人とこう頷き合った。「モスクワでの最大の勝者はプレミアリーグだ」と。

 収益拡大に余念のないプレミアシップ運営団体は、今年に入ってから、海外でのリーグ戦(第39節)実施案を発表して物議を醸した。最終的には、反対意見の多さに見直しを余儀なくされたが、「オール・イングリッシュ」として注目されたモスクワでの一戦は、格好のプロモーションとなった。

 同一リーグ勢による決勝は5年前にも実現している。PK戦で決着が付いた点も同じだ。だがミランとユベントスによる「オール・イタリアン」の対決は、120分間を0―0で終えた守り合い。対照的に今回のユナイテッドとチェルシーは、共に勝ちにいっての引分けだった。両軍が絶好機をすべてものにしていれば、延長戦終了時のスコアは、1―1ではなく3―3となっていたはずだ。

 相手の裏の裏を読む戦術合戦は通好みかもしれないが、一般大衆にとっての魅力は、やはりゴールにある。前半終了間際にフランク・ランパードがチェルシーの同点ゴールを決めると、パブの若い店員は思わず両手を天に突き上げ、重ねて運んでいた20個近いグラスを床に落として割ってしまったほどだ。

 加えて今回は、PK戦も観る者の心を激しく揺さぶった。先制ゴールを決めながらもPKに失敗していたクリスティアーノ・ロナウドは、チームの勝利が決まった瞬間、ピッチに顔を埋めて感涙に咽んだ。チェルシーのキャプテン、ジョン・テリーは、優勝が決まるはずだったPKを外してピッチ上で号泣した。PK戦に涙は付きものとはいえ、勝者と敗者、天国と地獄が一瞬で逆転するという、まさに劇的かつ残酷なドラマだった。

 西ロンドンのパブに集まった観衆の一人として、(最終結果以外に)あえて今回の決勝に注文を付けるとすれば、欧州の舞台ならではの“ロマン”に欠けていたということだろうか。欧州最高峰の戦いなのだから、異国の名門を退けて頂点に到達する方が感慨は深い。たとえばユナイテッドとリバプールが、それぞれ1999年と2005年に演じた逆転優勝も、バイエルンとミランではなくチェルシーやアーセナルが相手だったら、「奇跡」として語り継がれるほどのインパクトを持ち得ただろうか?

 とはいえ、イングランド勢によるCL決勝が、今後も繰り返されるのは確実だろう。プレミアシップからのファイナリストは4年連続。今年は、“ビッグ4”といわれる国内の4強が揃ってベスト8に進出し、うち3チームがベスト4入りを果たした。「CLの常連」から、「CL決勝トーナメントの常連」へとステップアップしたビッグ4は、さらなる資金力と戦力を手に入れるだろう。大陸側の強豪クラブが、揃って大幅なチーム改革や梃入れを余儀なくされている点も好都合だ。事実、プレミアシップとの二冠を達成したユナイテッドでは、66歳のアレックス・ファーガソン監督が、「欧州でもユナイテッドの時代を築く」と息巻いている。モスクワで散ったチェルシーが、悲願の欧州制覇に向けて再び大枚を叩くことは言うまでもない。

 パブからの帰り道、友人との話題はチェルシーの後任監督に及んだ。案の定、アブラム・グラント監督は3日後に解雇。最後まで手腕に疑問が残った指揮官の更迭は妥当だろう。本人はクラブの判断を不服としているらしいが、今回のCL決勝で最大の敗者になったのがグラントであることは明らかだ。

 後任人事には、監督にマーク・ヒューズ(現ブラックバーン監督)、助監督にジャンフランコ・ゾラ(現イタリアU‐21代表コーチ)という、90年代後半にチェルシーの前線で機能した凸凹コンビを希望したい。そして3年後を目処にゾラが監督に昇格。ユナイテッドのOBであるヒューズは、名伯楽(ファーガソン)の後継ぎに献上するつもりだと言えば、ユナイテッドファンの賛同も得られるだろうか。

 彼らが来季のチェルシーで指揮を執っている確率は低いだろうが、今後3年間でCL優勝を果たす確率は高い。早ければ来年にもユナイテッドとの雪辱戦の機会が訪れるかもしれない。モスクワで実現した「第39節」は、欧州におけるプレミアシップ時代の到来を告げる一戦でもあったのだから。

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