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ドイツに必要だったふたりの存在。 

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安藤正純

安藤正純Masazumi Ando

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photograph byBongarts/Getty Images/AFLO

posted2008/11/26 00:00

ドイツに必要だったふたりの存在。<Number Web> photograph by Bongarts/Getty Images/AFLO

 イングランドサッカーに興味がない人でも、ベッカム、ランパード、ジェラード、ルーニーの名前ぐらいは知ってるはずだ。ちょっと詳しい人だったら2人のコール(アシュリーとジョー)の重要性は説明するまでもない。ドイツであれば、これはもうバラック、フリングス、ラームになる。いずれも代表チームに欠くことのできない人材である。

 ここで問題。この9人の共通点とは何か?

 答え=19日のドイツ対イングランド戦のメンバーから外れた選手。

 親善試合と一言で片づけてしまえば簡単だが、やはりドイツ対イングランドの試合は別格。伝統の一戦で、地元ドイツでは“クラシカー”(クラシコ)と呼ばれる。そんな大事な試合にビッグネームが揃わなかったのは、怪我・翌週のCL・新人選手のテストなど理由があってのことだ。

 直近の試合でイングランドはベラルーシを3−1で、ドイツはウェールズを1−0でそれぞれ破っている。先発メンバーを大幅に変更しての両チームの今回の対戦はつまり、ここでどれだけ有力な新人を発掘し、なおかつ世代交代をスムースに進められるかの試金石の意味を含んでいた。

 単純な戦力比較をすれば、7人抜けのイングランドのほうが不利であったはず。ドイツのマスコミは彼らを『二軍』と書いた。ところが結果は2−1でイングランドの勝ち。それも内容的にドイツを圧倒しての勝利である。イングランドにとってベルリンは縁起の良い場所だ。アウェー、それも相手国の首都だというのに、これまで一度も負けたことがないのだから。

 さて、困ったのはドイツである。『二軍』相手にいいところなく完敗。とくに中盤はまったくの期待外れだった。26歳のロルフェス、22歳のツロコフスキとシュバインシュタイガー、27歳のジョーンズの4枚は、前号のコラムで紹介したバラック+フリングスの“困ったコンビ”に対する1つの提案だったのだが、展開力とオリジナリティに欠け、イングランドの厳しいプレスにしばしば立ち往生した。個人で突破できないばかりか、周囲との連携の拙さが浮き彫りになったのである。とくにロルフェスをサポートするジョーンズのパフォーマンスは悲しくなるほどだった。せっかくの初先発もこれでは、またもや控えベンチに逆戻りである。

 レフ監督が入れ込んでるDFベスターマンは、ライトフィリップスの素早い動作についていけず、終了5分前、『二軍』チームで「この日、いちばん出来が悪い」と評価されたテリーにFKからの競り合いで負け、決勝点となるヘディングを許してしまった。

 イングランドの1点目は23分、右CKからだった。前回の試合で高い評価を得たGKアドラーが、信じられないことにパンチングを空振りする。周りのDFはフォロー出来ず、お世辞にも代表レベルといえないDFアプソンに左足のスライディングで綺麗に決められた。

 前半を終了し、レフはGKアドラー、MFジョーンズ、FWクローゼを交代させた。そして立て続けにFW1人、DF2人も代える。だが、誰を代えようが状況に大きな変化は起きなかった。この中盤ではどうやってもゲームを作れないからである。シュバインシュタイガーにセンターを任せられるほどの力はない。仮に誰かがその役目を担えたとしても、攻撃の負担を軽くさせられる黒子役がジョーンズやマリンではお粗末すぎる。この日出場機会がなかったヒッツェルスペルガーが出ていたとしても、展開は同じだったはずだ。

 『二軍』のイングランドはドイツの3倍近い得点チャンスを作り出し、甘い中盤のチェックを嘲笑うかのようにデフォーとダウニングがロングシュートを放つ。絶好調のライトフィリップスはドイツとの実力差を見せつけて縦横無尽に走り抜け、マン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。

 「それでも63分にドイツは同点に追いついたじゃないか」と意地を張って反論するファンもいるだろう。だがヘルメスのゴールは「この日、いちばん出来の悪い」(しつこい!)DFテリーが草サッカー並みのヘボ・コンビネーションでドジってしまい、そこを突かれてのもの。決してドイツがパス回しなど、まともな手段で奪ったゴールではない。ラッキーなことにヘルメスのファーストタッチはGKの股間を抜いた。ゴッツァンゴールは1にも2にも幸運の女神が運んできたものである。

 とにかく、久しぶりに弱いドイツを見たというのが正直な感想だ。今年は初戦でオーストリアを3−0で撃破し、その後も快進撃を続けた。16試合で11勝2分3敗なので、1試合当たりの平均勝ち点は2.18。これは過去10年間では、06年に記録した2.33に次ぐ好結果である。しかし年内最後の試合でこの惨敗。試合後、レフは「あの試合内容では、今日の敗戦は順当な結果だ。ドイツはスペースを作れず、組織も機能しなかった。ルーズボールでもことごとく負けていた。イングランドに勝つには力不足だったのだ」と淡々と語るだけだった。

 どうやらチームは前途多難な様子になってきたぞ。こうなるとマスコミは犯人探しの警察型になるか、あるいは「若手の誰それに期待しよう」みたいな現実逃避型の論調になるものだが、長年稼がせてもらってきた恩人を忘れることはなかった。「ドイツには“影の勝者”がいるじゃないか」と伝えたのである。

 影の勝者とは、この日、ともに欠場したバラックとフリングスを指している。「バラックが出ていたら、中盤のパワーは違っていた」「汗かき役のフリングスがいてこそ、バラックは攻撃に専念できる」の指摘に続く結論は、結局「ふたりがいないと、ドイツは勝てない」になってしまう。

 バラックとフリングスを外した試みは失敗した。夫婦の関係に似ていてチームも「フリン」すると「バラ」バラになるものらしい。

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