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石井慧 結果がすべての男。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama/JMPA

posted2008/08/27 19:00

石井慧 結果がすべての男。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama/JMPA

 「結果を残しているのは認める。強いのだろう。でも何か認めたくない」

 理由は石井の柔道スタイルにあった。日本の柔道は、一本を獲ることを目指している。そこからすると石井の、一本を獲りにいくよりも駆け引きに長じることで勝利を目指す柔道は、亜流、邪道めいたものと捉えられてきたのだ。それは先の全日本選手権で、国内の大会では異例のブーイングを浴びせられたことからも分かる。

 結果を残しても、それに伴う地位を得られないのが石井だった。

 石井自身、一本を獲る柔道を目標としていないことを認める。では石井の目指すものは何か。それは「勝つこと」だった。高校時代には、すでに「勝ち方より勝利が大事です」と語っていた。

 そのための努力も惜しまなかった。

 「僕は才能がない。それでも勝ちたいんです。だから練習量だけは負けたくありません」

 練習量は、斉藤仁全日本男子監督をはじめ誰もが認める。高校時代には1日8時間練習をしていた時期もある。今も間違いなく練習量は日本代表で一番だ。

 こんなエピソードも努力家ぶりを物語っている。出身は大阪、名門私立の清風中学に通っていたが、合格するために1日8時間の猛勉強を積んだという。

 石井は、自身が勝てた理由をこう語った。

 「まわりから何を言われようと、ヒールであろうと、自分を貫いてきた。それで勝てたんです。勝った人間が強いんです」

 己のこだわりを捨てずに貫き、目標に到達するための努力を決して怠らなかった。そしてつかむことができたのが、金メダルだったのだ。

 そんな石井だからこそ、こんな言葉を吐いたのも納得がいく。

 「日本柔道を背負ってるつもりはないです」

 続く言葉は意味不明だったが……。

 「背負ってるのは毘沙門天です」

 異色のヒーローの誕生である。

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