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高原直泰 オシムに買われた男。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

PROFILE

posted2007/07/12 23:52

 「世界のサッカーが4-4-2を完成させる方向に練習法をつきつめるなかで、オシムさんのやり方はそれに対するアンチテーゼ。組織を固めるのではなく、判断力をアップするトレーニングなんです」

 そうした高い理想を持っている以上、いつまでも練習をこなすことで手一杯の選手は必要ない。高原はオシムの練習の真意を、たった数度参加しただけで読み取り、早く次のステージに行きたいと感じた。オシムからすれば実に頼もしいだろう。

 コロンビア戦後、高原はアジアカップへの抱負を語った。

 「日本にとってすごく大事な大会だし、3連覇がかかっている。ここで優勝できればコンフェデ出場の資格を得られるっていうのが、ひとつすごい魅力です。アジアカップにはヨーロッパや南米とはまた違ったチームが出場するし、引いてカウンターを狙ってくるチームもある。日本はどうしてもそういうチームに対して攻めきれないことが、今まであった。中東のチームには、速いFWやうまい選手がいっぱいいるので要注意ですね」

 キリンカップを終えた高原はつかの間のバカンスに出かけた。だが、そこでも完全に休養するのではなく、自分でフィジカルメニューを組んで、アジアカップのためにコンディションを整えてきた。

 6月下旬、日本代表の合宿のスタートが1日前倒しになったが、高原は実家のある静岡から駆けつけて参加した。高原と俊輔は別メニューでダッシュを繰り返した。

 「ずっと自分で練習していたんで、体力的には大丈夫でしたよ。今日もボールを使いたかったぐらいです。オフは全然ゆっくりできませんでしたけどね(笑)」

 ──オシムがクラブの反対を押し切って選んでくれたのは嬉しいと思うが、一方でプレッシャーもあるのでは?

 「とにかく結果を出すためにやっていくだけだし、コンディションをベストに持っていくだけ。責任とかプレッシャーとかは考えずに、自分のプレーが出せるようにやっていければいい。もちろん2連覇しているので優勝するつもりでやるし、結果と内容を伴うような試合をできればいいです」

 ──若いチームを引っ張る役割だが?

 「そんなに自分自身では意識してない。特に何かを無理にやるということは考えてないし、普段どおりやるだけですよ。何か訊かれれば教えるけど、いっしょに生活して戦う集団になるようにやるだけです」

 もっと若手に気さくに話しかけてあげてもいいのではないかとも思うが、ジュビロ磐田時代に中山雅史や名波浩から何かを言われたわけではなく、背中を見て学んだ高原としては、先輩たちと同じように「背中で語る」ということなのだろう。

 高原はこれまで、トゥルシエ、ジーコのもとでプレーしてきたが、これほど相性がいい代表監督はオシムが初めてだ。求め続けてきたストライカーとしての理想像が今、オシムのもとで結実しようとしている。

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高原直泰
イビチャ・オシム
フランクフルト

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