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湾岸の怪老曰く、“Japan did nothing” 

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posted2004/08/12 00:29

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[アジアカップ徹底検証]湾岸の怪老曰く、“Japandidnothing”

編集部=文

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岸本― 勉=写真

photograph by Tsutomu Kishimoto

 「Yesterday,Japan team did nothing!

 nothing! nothing! nothing!・・・・・・」

 ミラン・マチャラは取り囲んだ中国人記者に向かって豪然と言い放った。日本対オマーン戦の翌日、重慶市郊外のグラウンドで行われたオマーン代表の練習後のことである。

 完全にゲームを掌握しながら、中村俊輔の一撃に沈んだ試合後の監督会見では、彼は多くを語らなかった。「日本の攻撃についてどう思うか」という記者の質問は「ジーコに聞いてくれ」といなされ、固唾(かたず)をのんで「秘策」の解説を待った日本の記者陣を落胆させた。

 それだけに、試合の翌日、中国人記者に紛れた日本人に気づかずに、ついまくしたてた言葉は限りなく、その本音に近いと考えていいだろう。マチャラは続けた。

 「結果を伴わなければ、いくらいい内容であっても意味がない。私の古い友人であるジーコが昨日の会見で言った通り、重要なのは日本が勝ち点3を得たということだ」

 確かに日本にとって、過酷なコンディション下で、最大のライバルから勝利を得たことが、この試合のすべてと言える面はある。

 だがこの試合を単なる「アジアカップのグループリーグの初戦」としてではなく、今年10月マスカットで行われるW杯アジア1次予選でのオマーンとの「第3戦」の前哨戦として考えると、少々話は違ってくる。2004年、日本代表は、オマーンと3度激突する。第1戦が2月のW杯アジア1次予選だったとすれば、このアジアカップは第2戦にあたる。10月に控えた第3戦の貴重な「前哨戦」を、日本代表はいかに戦ったのか。マチャラの言う通り、何もしなかったのか。それとも何もできなかったのか。

 「足元に(ボールを)もらっても連動性がない。ダイレクトでポンポンと回してサイドチェンジする普通の展開もできなかった。修正しようとしたけど、最後までできなかった」

 中村のコメントは興味深い。ただしこれは今年2月の第1戦後のもので、7月20日の第2戦後のものではない。第1戦の課題は、第2戦でも修正されなかったのである。

 2月の試合と同様、この日もオマーンは徹底したマンマークのディフェンスを敷く。日本は序盤こそチャンスをつくったものの、時間の経過とともに、2トップがマークを振り切れず、ボールの収まりどころがない状況がボディブローのように効いてくる。中盤のタメとなるべき中村もアル・マハニリのマークに前をむくことさえままならず、そのため三都主アレサンドロや加地亮も、サイドに飛び出すきっかけをつかめない。まったくの手詰まりであった。ここまでは、第1戦と同じ展開である。

 違ったのは、第1戦では自陣にこもりっぱなしだったオマーンの選手たちが、第2戦では中盤を支配し果敢に日本陣内に攻め込んできた点である。なぜ日本が誇る中盤がかくも簡単に制圧されたのか。

 カギは3-5-2の「5」、特に中央部の配置にある。日本のセンターがトップ下の中村を頂点として福西崇史、遠藤保仁のダブルボランチが底辺をなす三角形だとすると、オマーンは、フージ・バシルとアハメド・ハディドの2人がトップ下に並び、一枚ボランチがアル・マハニリという逆三角形を形成する。この2つの三角形の「相性」が、試合の行方を左右した。中村は、淡々と振り返った。

 「10番(バシル)と21番(ハディド)がボールをもてるから、ヤット(遠藤)もフク(福西)も飛び込めなかった。そこに12番(アル・マハニリ)も加わって、3枚で攻めてきた。それでズルズル下がっちゃった。あっちは攻撃の起点が2カ所あるのに、こっちは起点がなくて、ただ回してるだけだった」

 将棋でいえば「駒組」の段階で、日本は本来の駒の力を十分に発揮できない格好におさえこまれたわけである。オマーンは2カ所の起点から、サイドの選手はもちろん、中村をマークしているアル・マハニリ、さらにリベロであるモハメド・ラビアまでもが攻撃参加をみせ、分厚い攻撃を繰り広げた。

 それを可能にしたのは、「オマーンのダービッツ」アル・マハニリの驚異的な運動量である。このポジションには2月の第1戦では、ハムディ・フバイスが入り中田英寿にほとんど仕事をさせなかった。フバイスがテンポよくボールをさばいていく展開力に優れるタイプであるのに対して、マハニリはタテへの突破力と運動量に優れている。決して運動量の多くない中村に対しては、マハニリの方が適役と、マチャラが読んだかどうか。

 もっともほとんどマチャラの策があたりかけたこの2人のマッチアップについていえば、最終的には中村の方が一枚上手だった。34分、クロスの跳ね返りを拾った中村は、慌てて飛び込んでくる2人のDF(うち一人がマハニリ)を右足インサイドで真横にスライドしてかわすと、信じられない体勢から左足アウトでゴール右隅を打ち抜いた。さすがのマチャラもこれには、度肝をぬかれたらしい。試合の翌日、「Nakamura is the only one player」と名指しで語り、記者たちに中村のキックの実技解説をしてみせた。

 前半の1-0という結果をうけて、ジーコはハーフタイムに次のような指示をおくる。

 「後半は点をとらなければいけないオマーンが前にでてくる。こちらは少し引いて、カウンターで相手の裏を狙うように」

 常に「自分たちのサッカーを」と高らかに宣言するジーコにしては珍しい指示ではある。後半、確かに、オマーンはさらなる攻勢にでてきた。日本は、ジーコの指示通りDFラインを引いたものの、オマーンの攻撃を跳ね返した後のセカンドボールへの寄せ、判断とも遅く、カウンターにつなげるどころか、波状攻撃をうけることになる。宮本恒靖は試合後、思わずこう漏らした。

 「とにかくなんでこんなに動かないんだろう、というぐらい体が動かなかった。前からのプレスもほとんどかからないので、DFラインを下げざるをえなかった」

 ズルズルと日本が下がってできたスペースにオマーンの選手たちが次々と侵入する。それでも最終ラインは、鉛のように重い体をひきずって、オマーンの猛攻を跳ね返し続け、ついに、タイムアップの笛を迎えた。

(以下、Number608号へ)

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