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勝利することの意味。 

text by

猪狩真一

猪狩真一Shinichi Igari

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posted2007/01/25 23:01

 長らく続いていた0―0の均衡状態が永井雄一郎のゴールによって打ち破られたとき、試合時間はほとんど尽きかけていた。浦和はこの内容でも勝ってしまうのか──。ゴールが決まった瞬間に、昨季のJリーグを見続けてきた人間を襲ったのは、ずしりと重いそうした感慨だったろう。

 リーグ戦の最大のライバルだったG大阪を決勝で撃破しての天皇杯連覇。リーグ王者と合わせての二冠達成。だが、そうした結果の華々しさとはうらはらに、天皇杯の勝ち上がりの過程はきわめて苦しいものだった。

 5回戦の福岡戦は、既にJ2降格が決していた相手に苦戦を強いられ、延長戦にまで持ち込まれた。準々決勝の磐田戦、準決勝の鹿島戦は、前半から相手のリズムで戦うことを余儀なくされた。そして決勝のG大阪戦は、6対21というシュート数が示す通り、終始主導権を握られ続けた、選手たち自身も認める“完全な負け試合”だった。

 準々決勝の時点で、田中マルクス闘莉王、ワシントン、三都主アレサンドロの名前がメンバーから消え、準決勝からは坪井慶介も消えた。また、リーグ戦終盤に負傷した堀之内聖も万全ではなかった。リーグの得点王、最少失点を誇ったDFラインの3枚、日本代表の不動の左サイド。故障や移籍準備のために、浦和はこれだけの人材を失っていた。

 誰もが唸らされたのは、それでも勝利という結果だけはつかみ続け、ついには優勝まで成し遂げてしまったその勝負強さだ。

 天皇杯連覇を置き土産に勇退したブッフバルト監督は、その要因を問われ、準決勝後と決勝後の記者会見で同じような返答をしている。彼が言う“浦和の選手たちが備えているもの”を要約すれば、

 「運命共同体として、激しい競争のなかで互いの能力を高め合っている」

 「勝者のメンタリティを身につけている」

 「自分に与えられたポジションで何をしなければいけないのかを熟知している」

 「自信を持ってプレーしている」

 といったことになる。

 ハイレベルの競争環境が選手たちの能力を引き上げたという見立てには、素直に納得できる。リーグ戦でベンチを温めてきた選手たちの奮闘がなければ、天皇杯連覇もありえなかった。だがやはり、勝ち上がりの内容を見れば、リーグ戦での布陣と天皇杯での布陣の間に力の差がなかったとは言いがたい(もちろんそこでは、天皇杯に対するモチベーションの問題も考慮しなければいけないが)。

 彼らが示した勝負強さについて考える材料となるのは、二つ目以降の見立てだ。

 勝者のメンタリティ、なすべき役割の理解、そして自信。この三つの要素が示しているものは何か。それは、勝ち続けることでしか得られないものが確実に存在するという事実だろう。“強いから勝つ”という因果とは逆に“勝つことで強くなる”という連鎖もある。浦和の勝負強さはその証明のように思える。

 そこで頭に浮かぶのは、'03年、'04年とリーグ戦を連覇した横浜FMとの相似だ。

 彼らは、自分たち以前の王者だった磐田のように、最少得点差のゲームでも明らかなレベルの差を感じさせる、といったサッカーをしていたわけではなかった。ロングボールを多用し、ゴリ押しに見えるような形でも最後には必ずゴールを奪って決着をつける。終盤での同点劇、逆転劇をくりかえし演じた神懸かり的な勝負強さは恐ろしいほどだった。

 当時の横浜FMを率いていた岡田武史監督は、「うちの選手たちは、チームのために最後まであきらめないという基本的なことができている」と語っていた。メンタルの強さを勝因に挙げたのはブッフバルト監督と同じだ。

 しかし、最後まであきらめない気持ちとは、スピードや技術のように、それ単体で独立している要素ではないように思う。

(以下、Number670号へ)

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