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川口能活 勝利という名のリベンジ。 

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山中忍

山中忍Shinobu Yamanaka

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posted2006/06/08 00:00

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[独占インタビュー]川口能活 勝利という名のリベンジ。

山中忍=文

text by Shinobu Yamanaka

 5月15日、午後2時過ぎ。ジーコ監督がW杯ドイツ大会に向けた日本代表チームの選手を発表し始める。彼の口から最初に出てきたのは、「カワグチ」の名前だった。

 W杯のメンバーとして、自分の名前が呼ばれるのを耳にするのは、これが3度目となる。だが川口は、21歳で初めてフル代表入りした時と同じような緊張感を味わった。

 「最終メンバー発表の瞬間は、いつになってもドキドキしますよ。車でジュビロのクラブハウスに向かう途中にテレビの音声で聴いていたんですけど、ハンドルを握る手のひらは汗でびしょびしょだった」

 勝負の世界に「絶対」はないことを知る川口らしい発言だ。W杯はサッカー選手ならば誰もが憧れる、4年に1度の祭典。ましてや川口の場合は、前回の日韓大会ではピッチに立つことができなかった。海外のクラブで苦しい日々を過ごしていた頃も、心の中には常にドイツ大会への思いがあった。意識するなという方がムリだろう。しかしここで特筆すべきは、それほどまでにこだわってきたW杯を目前に控えた川口に、まったくと言ってよいほど気負いが感じられないことだ。

 「もちろん、(大会が)本当に近づいているという気持ちはありますし、モチベーションも高まってます。でも、だからといって急にどうこうということはない。この段階で選手が口にする言葉というのは、これまでの蓄積に基づくものだけど、僕にはその積み重ねがある。だから代表に選ばれたからといって、特に意識がブレるようなことはない。やるべきことをしっかりやって、常に明るく前向きに、というスタンスを貫くだけです」

 とは言うものの、大会に臨むにあたっては、相応の準備──事前の情報収集や分析は必要不可欠になってくる。現に中村俊輔を始めとして、代表メンバーの中には、独自に対戦相手の研究を進めている選手もいる。川口はこの点について、どう考えているのだろうか。

 「テレビでもワールドカップの話題ばかりですね。特にオーストラリアやクロアチア、ブラジルについては、毎日のようにテレビに出てくるけど、僕はその度にチャンネルを変えるようにしている(笑)。あまり深く考えていないし、その方がいいような気がして。多少はハイライト映像を目にしたりしますけど、敵の戦術だとか細かい部分は、合宿でチームとして研究することになるから、具体的な情報というよりは、相手の『イメージ』を頭にインプットするという程度で」

 川口には、自分の出場した試合であるとないとにかかわらず、「これは」と思った場面を映像として正確に記憶する能力がある。何年も前に偶然テレビ中継で目にしただけの試合の一場面を、川口が克明に語るのを見て驚かされたことは、これまで何度もある。

 では川口は、これらのチームに対して、どんな「イメージ」を抱いているのか。川口は3チームすべてと対戦した経験があるが、相手のイメージは昔と変わったのだろうか。まずはオーストラリアの印象から聞いた。

 「イングランド的な要素のあるチーム。最後に対戦したのは2001年8月(AFC/OFCチャレンジカップ。日本は3-0で勝利)だけど、(マーク・)ビドゥカや(ハリー・)キューウェルのようなプレミアシップ勢抜きでも、テクニックのあるレベルの高いチームだと感じました。イングランドっぽい速さと高さに、柔軟性を加えたチームだと思う」

 オーストラリアとの初戦は、日本代表のその後の趨勢を大きく左右する。第2戦ではクロアチア、第3戦ではブラジルと対戦するため、勝ち点3を確実に上げておくという意味でも、チームに勢いをつけるという点でも、初戦は絶対に落とすわけにはいかない。

 しかし相手の力は決して侮れない。選手の潜在能力が極めて高いだけでなく、監督は名将ヒディンクである。グループリーグの組み合わせが発表された当時は楽観論もあったが、最近は苦戦を予想する声も多い。

 「そんなふうに言われているのは知っています。でも試合は蓋を開けてみるまでは、誰にもわからない。だから開幕戦だからといって慎重になりすぎず、強い気持ちで試合に臨みたいと思う。僕らには、スロー・スターター気味な悪い癖があるから、絶対に勝ちに行くという意識を持って、頭からガンガン行くぐらいで丁度いいのかもしれません」

 たしかにジーコジャパンには、相手に不用意に先制されるケースが珍しくない。確実に勝利を収めるためにも、川口の言うように、試合の主導権を握るのは必須となる。

 次のクロアチアはどうだろうか。このチームは'98年のフランス大会で、日本のグループリーグ敗退を決定づけた宿敵だ。当時のクロアチアは、川口から決勝ゴールを奪ったダボル・スーケルを筆頭に、傑出した「個」を軸にしたチームで、最終的に3位に輝いている。

 「現在のチームは、しっかりとした個人技をベースに、団結力で勝負するようになってきた。サッカーには国民性が反映されると思っているんですけど、クロアチアという国自体が、旧ユーゴスラビア諸国勢の中で最も成功している印象がある。その背景には、国民の一体感があるような気がしますね」

 川口にとっては8年越しの雪辱がかかった試合である。だがクロアチアに関しては、情報が少ないことも手伝って、識者の間からも、これといった「攻略法」や「対処法」は提示されていないのも事実だ。

 「集団の力で戦う点は僕らも同じだから、互いに相手の隙を狙い合うような展開になる。どんな相手でも、集中力を欠いたりミスをしたりする瞬間が絶対にある。だから、そこを逃さない集中力と決定力が、自分たちにあるかどうかが鍵になると思います。勝機を見出すためには、絶対に先にミスをしてはいけない。守るべきところはきっちり守らないと。

 まだ敵を分析したわけではないけど、クロアチアとの試合は、他のチームとの試合以上に、厳しい展開になるんじゃないですか」

 オーストラリア同様、クロアチアもフィジカルの強さや高さでは、日本よりもアドバンテージがある。体躯にものを言わせてどんどんボールを放り込んでくるチームは、日本が最も苦手とするタイプだ。

 「空中戦ではアグレッシブにいきたい。五分五分のボールだと判断したら、迷うことなく制空権を握る。そうすれば、最後尾からチームの士気を高めることができる。

 攻撃面では、カウンターアタックの起点になることが大事。正確なスローイングや正確なキックは、敵を一気に置き去りにできる。キックの長短も意識して使い分けていきます。オーストラリアとかクロアチアは高さもあるから、長いボールをドカンと蹴っても、いきなりヘディングで返される。それを避けるために普段から、サイドにも正確なキックを蹴れるように取り組んでいるんです」

(以下、Number654,655,656号へ)

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