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バイエルン・ミュンヘン 「退屈なサッカーを打破せよ」 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2005/03/31 11:13

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[稀代の戦術家が説く]バイエルン・ミュンヘン 「退屈なサッカーを打破せよ」

木崎伸也=文

text by Shinya Kizaki

 「ヤツは戦術狂信者(タクティック・ファナティカー)だから」と、記者に陰口を叩かれてここまできた。

 それでもクラウス・トップメラーは、戦術に執着し続けた。プロ選手としてのプレーを半年間休んでまで、大学でエンジニアの学士を取ったトップメラーにとって、紙の上で“計算”をするのは何をいわれようがやめられない楽しい作業だったのである。

 相手の分析には、何本もビデオを取り寄せ、システム、セットプレイのやり方、攻撃パターンを白紙に書きなぐっていく。

 「一番大事なのは、相手の弱点を見つけること。たとえば、相手が4バックだとしたら、誰が一番テクニックがないかを見る。仮にそれが右サイドバックの選手だったら、どうやって自分たちがプレスをかけるか考えるんだ。まずひとりが相手の少し後ろへ走りこんで、もうひとりが前からつめる……」

 そうやってトップメラーは、国内リーグでさえ優勝経験のないレバークーゼンを、2002年のチャンピオンズリーグ決勝に導くという快挙をやってのけた。残念ながら決勝ではレアル・マドリーに2対1で競り負けたが、その攻撃的な戦いぶりはドイツ国内だけでなく、ヨーロッパ中で高く評価された。

 そのときレバークーゼンで主力だったバラック、ゼ・ロベルト、ルシオが、今ではバイエルン・ミュンヘンの主力になっている。現在、現場から離れているトップメラーは、かつての教え子たちが出場したチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のバイエルン対アーセナルをどう分析したのだろうか。ドイツ最古の街トリアーで、トップメラーに会った。

 トップメラーは、アーセナルのベンゲル監督をためらうことなく批判した。

 「アーセナルの第一の失敗は、グループリーグと同じ戦い方で、決勝トーナメントに挑んだことだ。トーナメントでは、いかに自分たちが主導権を手に入れるかが大事だ。グループリーグとは違って、『やる』か『やられるか』のどちらかしかない。一方、バイエルンは1対0でいい、という戦い方をした。まず、これでバイエルンが勢いにのるきっかけを得た」

 トップメラーのベンゲル斬りはさらに続く。

 「そして最大の敗因は、DFラインにある。ベンゲルはあんなに金があるのに、何でDFを買わないんだ?― 本当に理解できない。キャンベルがケガだったのかもしれないが、あのDFのレベルでは勝てるわけがない」

 アーセナルはアウェーでの第1戦で、コートジボワール代表のトゥーレとフランス人のシガンをセンターバックに起用した。ふたりとも決して能力の低い選手ではないが、前線のアンリやピレスのように世界トップクラスではない。

 抜け目ないバイエルンは、そこを突いた。4分にGKカーンがロングキックをアーセナル陣内に放り込む。トゥーレがヘディングでクリアミスして、そのこぼれ球をピサロが冷静にゴールしたのだった。ドイツ人のメンタリティからすれば1点あれば十分。バイエルンは守備を固めて、後はカウンターを狙うだけでよかった。第1戦は3対1とバイエルンが大きなリードを得ることになる。

 ベンゲルの失敗は続いた。2試合目が始まって早々に、トップメラーは大声でTVに叫んでいたという。

 「なんでアーセナルはもっと前からプレスをかけないんだ!2点を取るには、積極的にボールを奪いにいかなきゃダメじゃないか!信じられん」

 アーセナルの不甲斐なさを伝えるために、彼はある練習のやり方を説明し始めた。

 「1対0で一方のチームがリードしているという設定で、紅白戦をやるんだ。時間は10分間。リードしているチームは守りきれば勝ちで、負けている方は追いつけば勝ちだ。これで負けている方にプレスを練習させて、どうやったらビハインドを跳ね返せるかの練習をするわけだ」

 アーセナルがプレスを強めないために、第2戦の前半はバイエルンが思うように攻めた。後半にやっとアーセナルはチャンスを作り始めたが、アンリのゴールで1点を返すのがやっとだった。バイエルンはトータルスコア3対2で、ベスト8進出を決める。

 今季もアーセナルは、チャンピオンズリーグでタイトルを取ることはできなかった。いったいなぜアーセナルは、国際舞台になると勝てないのだろうか?

 「それはアーセナルのサッカーが、きれい過ぎるからだ。パスをつなぐサッカーは、見ていて楽しい。だが、サッカーは『男vs.男』の勝負なんだ。ぶつかり合いを避けては、トップレベルで勝つことはできない。アーセナルに足りないのは、ACミランのネスタやガットゥーゾ、チェルシーのランパードやテリーのような選手だ。アーセナルには、ファイトする力強さが欠けている」

 一方のバイエルンには、タフさがあった。トップ下のバラックだけでなく、前線のピサロやゲレーロがアーセナルのDFを猟犬のように追い回して、流れを自分たちに引き込んだ。

 特に第2戦の前半のバイエルンは、アーセナルを全ての面で圧倒していた。この調子で行けば、2001年以来のチャンピオンズリーグのタイトルを、バイエルンは取ることができるだろうか?― しかし、トップメラーの答えは「Nein(ノー)」だった。

 「バイエルンは、驚きを与えられるだろうが、優勝は無理だ。DFに欠陥がある。ACミランやチェルシーに比べて、DFシステムがやや劣るんだ。なぜなら、ルシオとコバチは優れたDFだが、タイプが似すぎている。チェルシーで、テリーがカルバーリョをカバーするようなコンビの方が優れている。アンリに決められた場面でも、ふたりが同じ動きをしてしまっていた」

 それでは、どこが優勝候補になるのだろう?

(以下、Number624号へ)

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