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ディディエ・デシャン「理想とする監督への道」 

text by

田村修一

田村修一Shuichi Tamura

PROFILE

posted2004/06/17 02:52

SPECIAL FEATURES

ディディエ・デシャン「理想とする監督への道」

ヴァンサン・マシュノー=文

text by Vincent Machenaud

田村修一=翻訳・構成

translation & construction

by Shuichi Tamura

赤木真二=写真

photographs by Shinji Akagi

 ――決勝をどう受け止めていますか。ポルトはモナコよりも強かったのでしょうか?

「分析はいろいろ可能だし、後で何とでも言い得る。しかし歴史に残る事実は、決勝でポルトは3得点したが、モナコは0点だったということだけだ。そんな現実を前にして、われわれの方が強かったなどと、とても言う気にはなれないよ」

 ――もちろん後悔はいろいろあるでしょうね。

「ああ、まず失望が大きかった。チャンピオンズリーグの決勝に進むのはとても名誉なことだ。快挙と言ってもいい。だがそこで敗れるのは……、しかもああいう形での敗戦だからね。精神的にかなり辛いものがある。

 戦術面・技術面では、ポルトに試合を完全に支配されたとは言えない。なのに今シーズンを通してずっとやってきたことが、試合の結果に反映されなかったのはとても残念だった」

 ――ルドビク・ジュリーの負傷退場と、3人の攻撃的選手の不調(モリエンテス、プルソ、ロタン)が、ああいう結果に終わった大きな要因だと思いますが?

「“ルド”(ジュリー)の怪我がわれわれのゲームプランを制約したのは間違いない。彼の速さには特に期待していたからね。ポルトもデコを欠けば、試合はまったく別のものになる。それと同じことだ。

 他に関しては、どの選手が悪かったというようなことを、僕は言いたくはない。われわれはチーム全体の力で勝ち上がってきたし、決勝でもチームが敗れたわけだからね」

戦術的には、試合前の予想通りでしたね。

「ポルトはそれまで通りの戦い方をしてきた。フラットなディフェンスが高い位置をキープし、全体をコンパクトなブロックに保つ。だからこそジュリーの突破力は貴重だったんだ。彼ならばポルトのブロックに穴を開けられたハズだからね。

 僕はジコスをディフェンスラインの前に置いて、デコの動きを制限した。このシステムはうまく機能した。特にポルトが2点目をあげるまではね。しかしわれわれが相手のゾーンで、あまりチャンスを作り出せなかったのもまた事実だ」

 ――それはポルトの影響ですか?

「もちろん。彼らは攻撃にでているときでも、常に4~5人が守備的なポジションをとっていた。そうした守備の堅さ、組織の強固さが、ポルトの真骨頂だ。あのブロックを突き崩すのは簡単ではなかった」

 ――それでは今シーズンのチャンピオンズリーグを振り返ったときに、最も印象に残っていることは何ですか?

「たくさんあって、ひと言ではいえないよ。アイントホーフェンで勝った最初の試合からすべてが始まった。8ゴールをあげたデポルティーボ戦や、ロコモティフ・モスクワを破ってベスト8進出を決めた試合もそう。モスクワでの悪夢を払拭できたからね」

レアル初戦の結果が、可能性を残してくれた。

 ――レアルを破ったのは?

「それも言おうと思っていた。あのときは感極まったというか、何かとても強いものを感じた。チェルシーとの第2戦も同じ感じを受けたが、決勝が残っているという気持も他方で強かったからね。それはそうと、次は最悪の瞬間はいつだったかと聞くんじゃないだろうな(笑)」

 ――いえいえ、聞きたいのは最も難しかったときです。

「さっきも言ったように、モスクワでのロコモティフとの第1戦は厳しかった。難しい状況のなかで、ロコモティフのモチベーションはとても高かった。幸いモリエンテスが頑張ったのと、相手がチャンスを次々と外してくれたから、そう大事には至らなかったが……」

 ――今季躍進の鍵はどこにあったと思っていますか。とりわけレアルに勝てた理由は何だったのでしょうか?

「それは連帯意識であり、コレクティブな(チーム全体の)情熱や野心だ。われわれの意識が、すべてのベースになっていた。スタッフと選手たちの間には、親密な連帯感と補完関係があり、絶大な信頼感が生まれていた。全員が同じ目的を持って、プロジェクトに参加した。本当に素晴らしいグループだった。選手も若手とベテランがうまく噛み合っていた。

 レアルとの第2戦の前に、彼らにはこう言った。第1戦の結果(4対2でレアルの勝利)が、われわれに僅かな可能性を残してくれた。それを信じてやるだけやろうとね。

 僕だって確信があったわけじゃない。でもレアルのディフェンスには穴がある。そこを突いて大量点をあげるのも、不可能ではないと思っていたんだ」

 ――レアルに過信があったと思いますか?

「第2戦も先制点をあげて、勝ったと思い込んでしまったのだろう。彼らは、その後で状況はそう簡単ではないことに気付いたが、すでに手遅れだった」

 ――レアルだけでなくミランやマンチェスター、アーセナル、ユベントス、バイエルンら強豪クラブが、今季は次々と敗れました。

「たしかにビッグクラブが軒並み予想外に早く敗退した。プレッシャーもきついし、それだけ競争は厳しくなっているということなのだろう。われわれも混戦には貢献したしね。

 複数の大会を戦える選手層を持っているだけでは不十分。要は彼らをいかに効率よく交代で使っていくかだ。その点でモナコは、限られた選手をうまく使い回せたと思う。

 今季のチャンピオンズリーグを見ていると、いろいろな要素が絡み合っていたのがよくわかる。なかでも一番大きいのは運だった。

 たとえばポルト戦のマンチェスターは、敗北には値しなかった。だがレアルの場合は、運は関係ない。戦前からレアルが圧倒的に有利と言われていたからね。それでも別の結果が出るところが、サッカーの面白さだ」

 ――決勝に残った2チームは、どちらも選手個々の資質よりも、コレクティブなバランスに重きを置くチームでした。

「ポルトもわれわれも選手の質は高い。ただレアルやマンチェスター、ミランとは少々差があるのは事実だが……。君の分析に戻れば、たしかにポルトの強さはブロックにあるし、モナコが勝ちあがったのも、コレクティブな組織の力によるものだった」

 ――それこそあなたが監督として作りあげたことではありませんか?

「(微笑みながら)多少は貢献してるだろう。しかし選手はいちどピッチに出てしまうと、監督の手から離れるからね。われわれ指導者に出来ることは何もないよ」

 ――でもこれぞデシャンの方法論といったものもあるでしょう。

「ウィと答えるのは大きな思い上がりだろう。僕は何も発明してはいない。現役の頃からいろいろ見てきて、情報として溜め込んだものを、自分なりに 咀嚼(そしゃく)して吐き出しているに過ぎないわけだから」

(以下、Number604号へ)

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