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松井大輔 難局にこそ活きるドリブラー。 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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posted2006/03/23 00:00

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[逸材の起用法(2)]松井大輔 難局にこそ活きるドリブラー。

田村修一=文

text by Shuichi Tamura

 その日のルマン・レオン・ボレスタジアムは特別な雰囲気に包まれていた。普段は数少ないアウェーサポーターのスタンドが、緑色で埋め尽くされている。レ・ヴェール(緑)の異名を持つ名門ASサンテティエンヌは、アフリカネーションズカップに主力を奪われ戦力が大幅にダウンし、以降5敗1分と低迷していた。この間、順位も7位から15位まで下げ、この試合に負ければ監督解任まであり得る。アフリカ人たちもようやく復帰し、背水の陣で第28節ルマン戦にやって来たのだった。

 一方、迎え撃つルマンは対照的に、リーグ戦では年が明けてからはわずかに1敗したのみで、ここ6試合は4勝2分と絶好調。サンテティエンヌとは逆に12位から5位に急浮上し、UEFAカップ圏内まであと一歩と迫っていた。

 ルマン躍進の象徴が松井大輔だった。今年に入り先発出場した試合はすべて負けなしで、特にトロワ戦の2ゴールは強烈な印象を与えた。レキップ紙とカナルプリュス主催のファンが選ぶ月間MVPに、リヨンのシルヴァン・ウィルトールを僅差で抑え、ルマンの選手としてはじめて選ばれた。

 そんな松井を視察にジーコが訪れる。日本代表でも東欧遠征とアンゴラ戦で内容と結果を残した松井は、指揮官にとっても今一番気になる海外組の選手であった。

 前週、ルマンはパリ・サンジェルマンをパルク・デ・プランスで葬り去っている。決勝点となったPKを得るきっかけのフリーキックは、松井のドリブル突破がファウルを誘い得たもの。彼のドリブルはルマンの大きな武器であり、パサーばかりが突出する日本代表にも魅力であった。松井自身もドリブルに対するこだわりは常に口にする。

 「チェルシーとかバルサとか、自陣のフリーキックから点をとってるじゃないですか。ああいうのを見るとフリーキックは大切だと思う。仕掛けないとファウルはもらえないし、代表でもドリブルで仕掛けて、フリーキックをもらえるとチャンスになる。それだけで使ってくれても全然いいと思う」

 パリSGに続きサンテティエンヌも破ればルマンは一気に3位まで浮上する。週半ばには合宿も組み、決戦に備えたのだが……。

 試合はサンテティエンヌが激しいプレスをかけてルマンを分断し、ポスティガのゴールで1対0と勝利を収めた。パリSG戦に続きトップ下で起用された松井は、アフリカネーションズカップから復帰したばかりのディディエ・ゾコラ(コートジボワール代表)に徹底的にマークされ、自由なプレーを封じられた。後半は本来の左サイドに戻ったが、最後までリズムを取り戻すことはできなかった。

 「MVP受賞はすごくうれしいけど、試合に負けたので意味がないです」

 「(ジーコが来たことは)別にプレッシャーではなかったです」

 「まだまだできていないことが多いし、ほんとうに悔しいです」

 いつものように松井は、報道陣の質問に淡々と答えた。

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