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清水宏保 無敵のマッチョマン。 

text by

藤山健二

藤山健二Kenji Fujiyama

PROFILE

posted2005/03/03 00:00

 1年後に迫ったトリノ冬季五輪に向け、スピードスケートの清水宏保(NEC)が着々と準備を整えている。今季はW杯開幕戦の長野大会で連勝するなど好調なスタートを切った。その後のW杯や1月末の世界スプリントでは結果が出せなかったが、これはシューズの選択で試行錯誤しているのが主な原因で、調整自体に大きな狂いはない。長野五輪で夢の金メダルを手にし、ソルトレークシティー五輪でも銀メダルを獲得。トリノで表彰台に上がれば3大会連続のメダル獲得という偉業が達成される。日本のスポーツ史に燦然と輝くその道のりは、小柄な清水が創意と工夫で切り開いたものだった。

 「お前は体が小さいから人の2倍も3倍も努力しなくちゃダメだ。何倍も練習して必ず金メダルを獲れ」

 清水が子供の頃から父・均さん('91年に他界)のスパルタ教育を受け、長野で金メダルを手にした話は有名だ。身長162㎝、体重70㎏。スポーツ選手でなくても小柄な部類に入る清水は、父の教えを守ってひたすら猛練習に明け暮れた。氷を蹴る時に最も圧力がかかる両足の親指を鍛えるためにゲタを履き、下半身の筋肉を柔らかくするために相撲の股割りもやらされた。その基礎体力の上に帯広白樺学園高、日大、そして実業団での筋力トレーニングを積み重ね、世界を制する強靭な肉体を身につけた。

 一般的に、スポーツにおける体格の差は結果の優劣に直結する。体が大きい方がパワーもスタミナもあるのは当たり前の話だ。だが、1周400mのリンクを高速で滑り抜けるスピードスケートにおいては必ずしもそうとは言い切れない。確かにパワーは重要な要素だが、反面、体が大きければそれだけ空気抵抗は増す。コーナーを回る時にも小回りがきかない。逆に小柄な選手は空気抵抗が少なく、コーナーを回る際にも小回りがきく。その意味では体が小さいことは決してハンデにはならない。ただしそれは、大きな選手に負けないだけの筋力とスタミナ、そして技術を小さな体にまとえれば、の話だ。

 清水はこれまでに4度、世界記録を打ちたてている。最初は'96年3月にカルガリーで出した35秒39。一番新しいのは現在でも世界記録の34秒32で、'01年3月にソルトレークシティーで叩き出した。5年間で1秒07タイムを縮めたことになるが、面白いことに100mの通過タイムは9秒45で、どちらもまったく同じなのだ。ということはタイム差1秒07は、残り400mで短縮されたということになる。

(以下、Number622号へ)

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