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松井大輔 感覚という名の武器。 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2008/12/04 21:44

松井大輔 感覚という名の武器。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

──試合に出られない間、自分のスキルに対して不安を感じることはありましたか?

 「全くなかった。俺と同じポジションの選手に負けていると思ったことはなかったよ」

──日本人ということでネガティブな印象を抱かれていると感じることは?

 「サッカーに興味のない人は『日本人がサッカーをやっているの?』って驚く人もいるけれど、サッカーを知っている人は、そんなことはないし。日本人だから不利だとか、そんな風に感じたことはないかな」

──『フランスフットボール』で、「松井の移籍は失敗だった」と書かれていて、松井大輔が、日本人選手が、これほど注目を集めているんだと、少し驚きも感じました。

 「自分で言うのも変だけど、俺みたいに『どんなプレーをするのかわからない』という意外性のある選手が、今のフランスリーグには少ないから、他のチームのサポーターからも声援をもらうこともあるよ。『ユニフォームを濡らせ』って。試合で汗をかいて、頑張れという意味なんだけどね」

 少し照れくさそうに、それでも誇らしげに話す松井。プラティニやジダンを産んだフランスサッカー界だが、最近はファンタジスタが少ない。だからこそ、松井の高いテクニックや意表をついたプレーはフランスのサッカーファンを喜ばせるのだろう。

松井が描く日本代表の理想の攻撃スタイル。

 世界のサッカー界は今、テクニックよりもフィジカル重視の流れにあると言われている。パワーとスピードの時代。そんな世界の舞台で日本人、もしくは日本代表が戦うために必要なことを、イビチャ・オシム前監督は教えてくれた。それは連動性であり、組織力だと。オシムは、多くのパスを繋ぎ、相手守備陣を揺さぶるサッカーの土台を作った。そしてそれは岡田武史監督の日本代表でも活かされている。

 しかし、パスは繋がっても、ゴールが決まらない。やはりフィニッシュを決めるためには、しかける動き、個の力が必要だということを、改めて強く感じたのが10月15日の対ウズベキスタン戦だった。累積警告による出場停止で不在だった松井のことを思った。

──ウズベキスタン戦の印象は?

 「DVDで見たよ。勝たなければいけない試合で引き分けだったから、周囲が不満に思うのもしょうがない。でも、やっているサッカーはすごくよかったと思う。チャンスはいっぱい作れていたからね。もちろんゴールを決めなければいけないけど」

──今の代表のサッカーについてどう考えていますか?

 「岡田さんは『前からプレスをどんどんかけていく』ことや『ボールを取られたあとにどう取り返すか』ということをよく話している。その点はとても大事なことだと思う」

──しかし、DFラインが浅くなり、相手のカウンターで失点することも多い。

 「アジア相手の試合だと、むこうは自陣に引いてカウンターを狙っているから、それには細心の注意を払わなくちゃいけない。でも、今やっているサッカーはいいと思うよ。世界で本当に戦っていこうというサッカーだから。もちろんまだまだ足りないところは多いけど。世界と戦うことを考えたら、今のサッカーをやっていないと無理」

──試合中に中村俊輔選手と会話を交わしているシーンがよく目につくのですが。

 「俊さんと俺って、正反対だと思う。俊さんは監督的な目線でサッカーを見ているから、緻密に組み立てていく感じ。でも俺は感覚の目線だから、感覚で話している。だから俊さんの話はいつも『なるほどなぁ、そうかぁ』とフンフン聞いてしまう。いろんな発見があるから面白いし、勉強になることも多い」

──欧州でプレーしていると代表で活動する時間が短い。その短い時間でいかに選手間のパイプを太くするかが課題と中村選手は話していたけれど。松井選手は?

 「特別なことはないよ。俊さんはパサーだから、いろんな選手の感覚や特長を知っておく必要がある。でも俺はパサーじゃないから。昔はパサーだったんだけど、今ではアタッカーだからね(笑)」

(続きは Number717号 で)

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