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松井大輔 感覚という名の武器。 

text by

寺野典子

寺野典子Noriko Terano

PROFILE

photograph byTamon Matsuzono

posted2008/12/04 21:44

松井大輔 感覚という名の武器。<Number Web> photograph by Tamon Matsuzono

 朝の通勤ラッシュが終わった午前10時を過ぎてもたくさんの人で溢れるリヨンパドゥ駅のコンコースに、松井大輔を見つけた。

 「昨日は休みだったから、パリへ行ってきたんだけど、祭日でお店が開いてなくて、あまり買い物ができなかったんだよね。でもやっと髪を切れたからよかった」

 UEFAカップを戦う今季は週2試合を消化するため、休日もわずかだという。戦利品の少なさは抱えた紙袋の小ささが物語っていたが、リフレッシュには十分なパリでの休日だったようだ。そして11月12日のこの日は、松井にとって再出発の日である。

 駅の地下駐車場に停めた車を運転し、サンテティエンヌのクラブハウスへと向かった。

 今年8月、「大きなクラブで新たな挑戦をしたかった」とルマンからフランスリーグ最多優勝回数を誇る名門サンテティエンヌへ移籍したが、14節終了時点で8試合に出場しただけ。うち先発は4試合だがいずれも途中交代。『フランスフットボール』誌の“失敗移籍ワースト10”という記事でワースト2位にランキングされ、思わぬ注目を集めている。

 そして、チームも11月9日、54年ぶりとなる5連敗を喫してしまう。順位も18位にまで落ち、迷走中だった。

 「10日は練習、11日はオフ、12日は2部練習の予定だった。でも10日の練習を終えて家に帰ったら、『監督が解任されたから、12日は午後だけになった』と連絡があって『よしパリに行こう』って、出かけることにしたんだ」

 駅の売店で買ったパン・オ・ショコラをほおばりながら話す松井の声が弾む。車は軽快にサンテティエンヌへと駆けていく。約1時間弱のドライブを経て、クラブハウスに到着。昼食をとりながらインタビューを行なった。

──シーズン開幕から約3カ月間、試合に出られず精神的にも大変だったのでは?

 「正直ストレスはあったよ。でもその間に考える時間ができた。考えて考えて、ここはこういうサッカーなんだとか、いろんなことに気がつけたから、よかったんじゃないかな。監督も代わったし。これから、流れが好転することを願っているんだけど」

──'04年に京都パープルサンガからルマンへ移籍したときとは違った難しさもあったのですか?

 「ルマンはチームの雰囲気もファミリアという感じ。だから新しいチームにも新しい生活にも溶け込むには最高の環境だった。でも、サンテティエンヌは大きなクラブだし、ルマンとはまた違った雰囲気があったから、少し難しかったかな」

──チームは開幕からつまずいたけど。

 「なかなか勝てない状況でも、監督は同じ選手を使い続けていた。今季はUEFAカップもあって、試合数が多いから、試合に出ている選手の中に怪我人が増えていたしね」

──クラブの会長がサポーター集会で「松井はクラブに適応していない。彼に『松井大輔の弟じゃないか』と聞いたことさえある」と酷評したそうですね。

 「このクラブには会長がふたりいて、派閥になっている。俺を酷評した会長は俺を獲得した会長じゃないから。サポーターに対して選手をスケープゴートにしたんだ。そして、もうひとりの会長が前の監督をクビにして、新たにアラン・ぺラン監督を呼んできた」

【次ページ】 松井が描く日本代表の理想の攻撃スタイル。

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