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ジャンルカ・ザンブロッタ「超攻撃的サイドバック宣言」 

text by

宮崎隆司

宮崎隆司Takashi Miyazaki

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photograph by

posted2006/12/21 22:56

SPECIAL FEATURES

[カルチョの国から来たDF]ジャンルカ・ザンブロッタ「超攻撃的サイドバック宣言」

クリスティアーノ・ルイウ=インタビュー

interview by Cristiano Ruiu

宮崎隆司=翻訳・構成

translation by Takashi Miyazaki

──ドイツW杯終了後、欧州移籍市場で最大の注目を集めた「ユベントス流出組」。カンナバーロやエメルソン、テュラム、イブラヒモビッチ、ビエラがユベンティーノ(ユベントス・ファン)から「裏切者」と罵声を浴びせられる中、君だけは違っているね。

 「これまでに僕は一度も『キャリアの最後までユーベに残る』とは言っていないからね。今回だって『セリエBに落ちても残る』と公に言ったことは一度もないんだ。つまり僕は誰のことも裏切っていないんだよ。しかもユーべの新首脳たちは僕の思いを聞こうとせず、ただ放出することだけ考えていた。バルサとの契約が成立するまで、彼らは一度も僕と話をしようとはしなかったんだ……」

──その対応に少なからず失望していると?

 「もう少し違う『売り方』があったのでは、と思うんだよ。ただ、あの頃のユーベには是が非でも利益を上げる手段が求められていた。あの一連の騒動で被った損失は莫大だったのだからね。君が冒頭に挙げた選手たちの殆どはキャリアの頂点にあったし、W杯を制したことでイタリア人選手の市場価値が高騰していたのも事実だ。より高い売却益をクラブが求めたのは必然だったとも思う」

──だが君はユーベに残りたかった。W杯を終えたとき、セリエBであろうと残留するつもりでイタリアに戻って来た。そうだろ?

 「そしてユーベをセリエAに引き上げ、再び欧州の頂点に立つための力になりたかった。でも事態はそれを許してはくれず、まったく別の現実が僕の前に広がっていたんだ」

──7月13日に電話がバルサから入り、6日後にユーべ本部をバルサ首脳が訪ねた。「テュラム獲得に500万ユーロ(約7億5千万円)出す。その代わりザンブロッタを1400万ユーロ(約21億円)で渡してほしい」。こう言ってバルサは君の獲得を強く求めた。

 「あの日の午後に僕の運命は変わったのさ」

──ユーベへの思いを強く抱きつつも、やはり世界最強クラブからの誘いに対して「ノー」とは言えなかった?

 「繰り返すよ。僕にはユーベ首脳が下す決定に従うことしか出来なかった。ただ、バルサ側の『ザンブロッタ獲得こそが最大の目標だ』という言葉は僕にも伝えられていた。『あのバルサからそう言われるってことは俺も捨てたもんじゃないな……』って、そう一人呟いたものだよ(笑)」

──その世界最強軍団、居心地はどうだい?

 「悪くないね。ここではフィールドの内外で最大限の自由が許される。それがバルサのフィロソフィー(哲学)であって、昨季までのユーベとは対極にあると言えるかもしれない。ファンに囲まれてトレーニングし、試合の後も自分の車でスタジアムから出て行ける。深夜2時にパブで酔っていても翌日の新聞の見出しを飾ることもない(苦笑)」

──そういえば、スペインに着いたその日に面白いエピソードに出くわしたらしいね。

 「それは……あのタクシー・ドライバーのことだね(笑)」

──同じカタルーニャのクラブ、エスパニョールのファンという彼は……。

 「『バルサの選手は絶対に乗せん!― 他を探してくれ!!』って(笑)」

──それで?

 「素直に彼の指示に従ったよ!― もちろん大笑いしながらだけどね。でも、それだけじゃないんだ。その4日後、まさにエスパニョールとの試合があってね。途中から僕がピッチに立つと、その瞬間にエピソードを知るエスパニョールのファンが横断幕を掲げたんだ。ほぼ完璧なイタリア語で『ザンブロッタ、次からはバスに乗れ!』って(笑)。なんだか可愛いでしょ?― ここでもクラブ間のライバル関係は凄く激しいんだけど、イタリアと違って感情を暴力に訴えたりはしないんだ」

──ユーベとバルサ。両者の最も顕著な違いはどこにあると君は感じているんだい?

 「トレーニングからしてまったく違うよ。フィジカル・コントロール、そして何よりも細かい戦術の確認に重点を置くユーベに対して、ここバルセロナは先ずテクニック、魅せるサッカーありきだからね。発想がまったく逆。最初の頃は練習量が物足りなくて、一人残って筋トレに励んでたりしたものだよ。ユーベの練習の方が格段にハードだったからね」

──そこでの違いは、当然ピッチ上にダイレクトに反映されるわけだね。

 「その通り。主力の大半がトップコンディションにあるとき、ユーベはどんな敵であろうと圧倒できた。組織力で攻めてコレクティブに守る。その形を絶えず続けるには、常に高いフィジカル・コンディションが欠かせないんだ。そのレベルが少しでも落ちると組織に綻びが出てしまう。特に攻めの形が画一的になってしまう傾向があった。バルサは違う。ここでは選手個々のイマジネーションの総和がチームの力であって、コンディションレベルとパフォーマンスがユーベほど密接に関係していないんだ。そしてカンプノウを埋める10万の観衆は、そのすべてがショーを求めてやってくる。退屈な勝利を許してはくれない」

──それはカペッロとライカールトの違いに他ならないわけだね。

 「カペッロは守備を、対してライカールトは攻撃を前提にチームを作る。カペッロは厳格に守備の安定をチーム全体に求め、ライカールトは華麗な攻撃を追い求める。カペッロは常に守備のスペシャリストを6人配し、その数をライカールトは2人に留める。カペッロは緻密な戦術プランを組み立てて試合に臨み、ライカールトは局面の打開を選手のイマジネーションに委ねる。それだけじゃない。カペッロは常に12~13人の選手を固定して布陣を組むのに対し、ライカールトは可能な限りのターンオーバーを用いる。規律と自由。2人のサッカーは相反するものだよ。だけど、どちらが優れているかなんてことは僕には判断できない。言えるのは、カペッロのユーベでもライカールトのバルサでも、この僕が問題なくプレーできるということだけだよ」

(以下、Number668号へ)

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