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ドゥンガ 「緻密さと総合力の融合こそ強さの秘密」 

text by

大野美夏

大野美夏Mika Ono

PROFILE

posted2005/12/22 00:00

 日本の練習で変だなと思ったことは幾つかある。例えば、30mくらいのロングパスの練習。これが実際に試合で使われるのは、1試合で3回くらいしかない。試合の80%はショートパスだ。だから、もっとショートパスに磨きをかける練習をすべきだと思う。それから、4対4の練習でも、何分やってシュートを何本打って終わり、そういう練習で満足していたら大間違いだ。時間や回数よりも、修正できたかどうかが重要なんだ。それも、頭で理解するだけでなく、実践できるようになること。大切なのは、できないことを繰り返しやってできるようになることだ。

 監督は試合までにボールの位置、選手の動きを細かく指導するが、基本的にピッチに入ったら、その瞬間から選手は自分で対応するしかない。ボールが目の前にある時に、監督に尋ねている暇はないのだから。

 サッカーは一瞬の競技だ。相手がボールを持っているとき、次の行動を考えて1秒でも止まっていたら、手遅れになることが多い。相手に右をやられたら、その攻撃をどこで食い止め、次は自分達がどうやってお返しするか。そのためには、お互いが次にどう動いて、どういうふうに流れるかを瞬時に決めなければならない。ボールを持った時、自分はどっちに向かうのか、相手が来たらどこで構えるのか、それぞれの状況に対応できるように、感覚と技術を高めておく必要がある。

 もちろん、想定外のこともピッチでは起こり得る。それは練習していなかったから対応できない、というのでは困る。試合は想定内50%、想定外50%。この想定外にどう対応できるかは、選手の自主性と想像力にかかっている。例えば、相手の情報が事前にあまりない場合もあり得る。そんなとき、我々ブラジル人選手はそれまでの経験から相手の状況、弱点をゲーム開始の何分かで察知する。それを仲間にすばやく知らせて、そこを攻めるようにする。それができるのは、やはりピッチに立った個々人の経験と、能力の高さなんだ。

 逆に、相手に隙を与えずに、想定外のことを仕掛ければ、相手にとってはそれが一番怖いことになる。ブラジルの強さはそこにある。ロビーニョやロナウジーニョがリスクを抱えながらも、奔放なプレーで攻める。相手にしてみたら想定外のことが次々と降りかかってくるわけだ。一瞬の判断ができないまま、どう対処していいかわからないうちに、あれよあれよという間にゴールが入っている。

 ときには、攻めるためにリスクを冒す覚悟も必要なんだ。日本人はリスクを背負う勇気が持てず、相手を脅かせないときがある。もちろん、闇雲にリスキーなプレーをしろと言っているのではない。肝心なことは、リスクを背負っていいところと悪いところをしっかりと理解することだ。DFならリスキーなプレーは 20%までOK、MFなら50%。そして、FWなら100%リスキーでも問題ない。どんどん攻撃して、相手を脅かし続けることが必要なんだ。

 ブラジルは決して個人技だけで勝っているわけではないが、瞬間の個人の判断、想定外のプレー、相手を脅かすプレーができるという意味で、才能のある選手が前線にいることは非常に大きな武器になっている。

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