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<乱高下スタートの真相> 松坂大輔 「揺れ動く心」 

text by

石田雄太

石田雄太Yuta Ishida

PROFILE

photograph byYukihito Taguchi

posted2011/05/18 06:00

開幕直後、無残な2連続KOを食らいながら、
続く2試合では、別人のような好投を演じる。
ところが次の一戦は、イチローに痛打を浴びて突然の降板――。
ジェットコースターの如き序盤戦の中で、本人が味わっていた思いとは?

 えっ!?

 キョトンとした彼の顔が、本当に知らなかったのだということを窺わせた。

「えっ、次、イチローさんですか……えっ、次? ホントですか」

 松坂大輔がイチローと今シーズン、初めて対峙することになる、その6日前――エンゼルスを1安打に抑え込んだ、4月23日の試合後のことだ。松坂は次の登板がマリナーズ戦になることを知らなかった。

「そっか、次はイチローさんなのか……」

 マリナーズとは言わずに、イチローさんと言うあたりが、いかにも松坂らしい。開幕当初は、順番通りにいけば松坂は4月のマリナーズ3連戦には登板しないはずだった。ところが、4月13日のレイズ戦が雨で中止となったことでローテーションがずれ、急遽、4月29日のマリナーズ戦に先発することになったのだ。

 それにしても毎回、あれほど楽しみにしてきたイチローとの対戦を知らなかったなんて、今の松坂にはそれほど余裕がないのか、それとも単なるいつもの大物ぶりなのか、どっちなんだろうと考えてしまった。

 それは、ローテーションの5番手として開幕を迎えた松坂が、いきなり2試合連続で無残なKOを喰らったからだ。ローテの座を守るどころか、地元メディアからはもうトレードに出すべきだとの声まで上がってしまい、松坂は開幕早々、断崖絶壁の厳しい立場に追い詰められた。

理想と現実の狭間に揺れつづけたメジャーでの4年間。

 メジャーに来てからの、松坂の憂鬱――。

 それは、日本で8年間かけて研ぎ澄ましてきた感覚を、いったんリセットしなければならなかったところに起因している。硬いマウンドと滑るボールに対応するフォーム、球数制限による打たせて取るための緩いボールなど、日本では求められることのなかったものを求められ、“レッドソックスの松坂”は“ライオンズの松坂”とは別のピッチャーにならざるを得なかった。

「スピードに対してのこだわりは未だにありますけど、考え方は変わっています。日本のときは、速い球をしっかり、きっちり、コースに投げるということしか考えていませんでした。アバウトにストライクゾーンを使うということは、まったく考えていなかったですからね。でもメジャーに来て、ストライクゾーンの使い方を考えさせられました」

 メジャーでの経験値を上げていくに連れて、松坂はゴロを打たせるピッチングの必要性を痛感させられる。それでも彼は、心のどこかでボールを動かすピッチングに抵抗し続けた。フォーシームのスピードボールでストライクゾーンのギリギリいっぱいを突いていくピッチングをメジャーでも……そんな理想をどうしても忘れることができなかったのだ。

 2006年の松坂は日本でそういうピッチングをしていた。ところが、メジャーのマウンドでは日本のときと同じ質のフォーシームはなかなか再現できない。イメージ通りのピッチャーに近づきたいという目標と、今日のゲームに勝たなければならないという責任――理想と現実の狭間に揺れながら、松坂はメジャーでの4年間を過ごしてきた。

<次ページへ続く>

【次ページ】 2本の道で彷徨っていることが開幕からの迷走の要因?

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