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アドリアーノ 「セリエが育んだ怪物」 

text by

豊福晋

豊福晋Shin Toyofuku

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posted2006/02/23 00:00

SPECIAL FEATURES

[証言構成]アドリアーノ 「セリエが育んだ怪物」

豊福晋=文

text by Shin Toyofuku

 「リーバのシュート力、ファン・バステンのアジリティー(俊敏性)、そしてロマーリオのゴール嗅覚を合わせ持つ男」

 インテルの指揮官ロベルト・マンチーニはアドリアーノをこう評し、そして付け加える。

 「まったく、怪物のようだよ」

 アドリアーノを形容する言葉は数多くあれど、この言葉が最も的確に表わしているのかもしれない。まさに彼は怪物のようなプレーを見せ、数多くのゴールを決めている。驚かされるのはそれを守備大国のイタリアで実現しているという点だ。エレニオ・エレーラやアリゴ・サッキに代表される歴代の名指揮官は、その時代ごとに世界を驚かせる守備戦術を発明し、発展させている。今でもカルチョの根底には、その高度な守備文化が流れている。そんななか、セリエAの数多くのDFが、最も恐れるストライカーとしてアドリアーノの名を挙げている。

 パオロ・マルディーニの彫り深き目には、無数のFWの姿が焼きついている。セリエAデビューは'84~'85シーズン。そこには全盛期のマラドーナ、ジーコ、ルンメニゲがいた。'90年代にはバッジョをマークし、バティストゥータと空中戦を競った。そして今、マルディーニが最も怖れるFWはアドリアーノだという。

 「彼はDFにとって本当に嫌な存在なんだ。凄まじいフィジカルを持っているから体同士の接触になると勝ち目はない。そして左足のシュートは、ものすごい破壊力を持っている。最近では体の使い方にも上達が見られるし、特に1対1で以前よりフィジカルを生かすのが上手くなっている。まだ若いが、間違いなく世界有数のFWだ」

 マルディーニは自身が欠場した今シーズンのミラノダービーを忘れる事ができない。昨年12月11日に行なわれたその試合で、アドリアーノは2ゴールを決め、3-2でインテルを勝利に導いている。

 「あの試合はアドリアーノが一人で試合を決めたようなもの。1点目はPK、2点目は彼の強烈なFKからマルティンスがこぼれ球を押し込んだ。そして決定的だったのがロスタイムの3点目。あのシーンもそうだったが、とにかく彼にはスペースを与えては駄目なんだ。アドリアーノを止めたければ、全てのDFはまず最初にこれを念頭に置かなければならない。そしてもう一つ、あの爆発的な左足のシュートを打たせないために彼の左を切ることだ」

 そのマルディーニと共に長きにわたりミランの守備を担ってきたコスタクルタは笑う。

 「アドリアーノを止める方法?― 彼の調子が悪い日に対戦することだよ(笑)。もう皆知っているだろう?― 彼の魅力は何といってもあの力強さだ。一人で止めるのは難しいと考えておいた方がいい。ポイントは全員でプレッシャーをかけて、ペナルティーエリアから遠くでプレーさせること。あとはパオロも言うように、彼の左を切ることだね」

 ネスタも「とにかく密着して左足で持たせないこと。彼の左にボールが渡った時点でミスだと思うようにしている」と語るように、ミラン守備陣は声を揃えて “スペースを与えずに左を切る”ことをポイントに挙げている。しかしサッカーというスポーツに与えられたルール上、密着できないケースも存在する。それがセットプレーである。

レアルから奪った一本のFK、

全てはここから始まった。

 アドリアーノの欧州での伝説は'01年8月17日、レアル・マドリーから奪った一本のFKから始まった。「サンチアゴ・ベルナベウの雰囲気に感動した」という19歳のアドリアーノは、しかしその雰囲気に飲まれることなく、後半から途中出場するやいきなり強烈なゴールを叩き込んだのである。

 「ボールさえ見えなかった。正直驚いたよ。長い助走もなしにとんでもないシュートを打ってきたんだから」

 レアル・マドリーのGKであるイケル・カシージャスは当時を思い出す。カシージャスはその試合でアドリアーノが決めたシュートが自身のサッカー人生における最もインパクトのあったゴールの一つと告白する。

 「止めるのは不可能だったと今でも思っている。ボールはすごい勢いでクロスバーの下に飛んでいった。試合前は誰もアドリアーノの事は知らなかったけど、試合後にレアルの選手は皆驚いていたよ。あいつは一体誰だってね。今、彼と同等のキックができるのはレアルのロベルト・カルロスかヘタフェのペルニアくらいだろう。ただ、彼らはサイドバックだ。FWとしては間違いなく世界ナンバー1の破壊力を持つ選手だ」

 このゴールにより一気に注目度が上がったアドリアーノだったが、カルチョの現実は甘くはなかった。

(以下、Number647号へ)

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