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ゼ・ロベルト「異能ボランチの存在理由」 

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木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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posted2005/12/22 00:00

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[好守の要が明かす]ゼ・ロベルト「異能ボランチの存在理由」

木崎伸也=文

text by Shinya Kizaki

 ブラジルの先発メンバーを見ると、ひとりだけ違和感のある選手がいる。バイエルン・ミュンヘン所属のゼ・ロベルトだ。

 本職は「左ウィング」のゼ・ロベルトが、なぜか現在のブラジル代表では「ボランチ」としてレギュラーに定着しているのだ。2002年W杯メンバーにも入らなかった“番外MF”が、いつの間にかセレソンには欠かせない主力になった。それもドゥンガが「90分間休むことのできない心臓」と表現する最重要ポジション=ボランチにである。

 ゼ・ロベルトは今回のW杯予選では18試合中14試合に先発した。チームメイトのカカも「パレイラ監督は、ゼ・ロベルトのことをかなり気に入っているみたいだね」と驚いている。

 だが、本来のポジションでの起用ではないだけに、ブラジルの専門家の間からは疑問の声もあがっている。'94年W杯優勝メンバーのドゥンガは、こう指摘する。

 「ゼ・ロベルトの特性として、どうしても攻撃に参加したがる。W杯予選はこれで良かったが、本大会ではボランチはリスクを負うべきではない。結果を出すために、しばしゼ・ロベルトには攻撃を忘れて欲しい。もうひとりのボランチのエメルソンを孤立させてはいけない。2人でがっちりと中盤を固めることが重要だ。そうすれば、トップの4人が攻撃に打ち込めるだろう」

 同じく'94年W杯優勝メンバーのジョルジーニョも心配している。

 「ゼ・ロベルトはボランチが本職ではない。だから時々、守備で危険な場面がある」

 守備的な選手であればアーセナルのジウベウト・シウバやバルセロナのエジミウソンと、いくらでも代えがいるというのに、それでもパレイラ監督はゼ・ロベルトにこだわり続けている。そこには何か秘密があるはずだ。

 バイエルン・ミュンヘンのクラブハウスでゼ・ロベルトに会った。

 ゼ・ロベルトは'96年に22歳で、レアル・マドリー移籍を果たすも出番に恵まれず、一度ブラジルに戻った。その後、レバークーゼンに移籍し、ようやく開花した苦労人だ。現在はバイエルンで左MFとして活躍しており、ドイツでは“ドリブルの芸術家”と呼ばれている。

──まず確認させてください。あなたはブラジル代表でボランチ(Volante)ですか?

 「その通り。今の私のポジションは、ボランチだよ」

──でも、本来は左ウィングですよね?

 「本当は左ウィングの方が好きだ。でも、ブラジル代表としてプレーできるのは最高の喜びなんだ。だから、どのポジションで出るかは関係ない。'98年W杯のときはメンバー入りしたけど、1試合しか出られなかったからね。そういう悔しさはもう味わいたくない。今度こそ、レギュラーとしてW杯に出たいんだ」

──守備の面で不安はない?

 「おいおい、私はブラジル人なんだぜ。日本人の視点で見ないでくれ。たとえばコンフェデ杯で中田英寿はボランチの位置でスタートしたけど、ガンガン上がってきて守備をしてなかっただろう?― 彼はボランチではない。だが、私は違う。攻撃だけでなく、守備だってできる。それがブラジルと日本選手のキャパシティーの差だ」

──ついつい日本基準で考えてしまいました。

 「まあ、ヨーロッパでも誤解されることはある。『ゼ・ロベルトは攻撃しかできない』ってね。今年夏のコンフェデ杯では、そのイメージを変えることができたと思う。ブラジル人は、いろんな状況に柔軟に対応できる。悪く言えばルーズだが、良く言えばフレキシブルということ。それがブラジル流のキャラクターだ。もしスープをかき混ぜるものがなければ、木の枝だって使う」

指揮官が、ゼ・ロベルトをコンバートした理由とは。

 就任当初パレイラは、ポスト“2002年”を担うイレブンを模索していた。フェリペ監督率いるブラジルは2002年W杯優勝を成し遂げた。このときのシステムは3-5-2だった。だがパレイラは、4-4-2こそが、ブラジルのシステムだと思っており、同じベースを引き継ぐことはできなかった。パレイラは若手やベテランに限らず、50人以上の選手をテストし、理想形を追い求めた。

 最初に試したのは、中盤をダイヤモンド型にして、1ボランチにすることだった。これだとバランスは取れるのだが、ブラジルらしい自由な攻撃がなかなか出てこなかった。

 そこでパレイラは、今年3月、思い切った策を打ち出す。それはロナウジーニョ、カカ、アドリアーノ、ロナウド(もしくはロビーニョ)の4人に、攻撃を任せてしまう方針だった。ポジションはあってないようなもので、本能のままに攻撃をさせる。その代わりボランチを担った2人は、まず守備に専念しなくてはいけなかった。

 この新システムは、今年6月のアルゼンチン戦で1対3で敗れて大きな批判にさらされたが、それでもパレイラは「完成させるには時間がかかるのは当たり前」と言って、新たな可能性を断念しなかった。それがコンフェデ杯優勝という成果となって表れたのである。

 システム変更に伴って、ボランチにコンバートされたのがゼ・ロベルトだった。パレイラは、'94年W杯でMFのレオナルドを左サイドバックにコンバートしたことがあり、選手の潜在能力を見抜く目には定評がある。監督の期待どおり、ゼ・ロベルトはあっという間に代表に欠かせないボランチに成長した。

──現在のセレソンでのボランチの役割を教えてください。

 「まずは守備だ。ご存知のとおり、ブラジルの攻撃陣はずば抜けている。ロナウド、アドリアーノ、ロナウジーニョ、カカの4人が前にいる。私とエメルソンの2人のボランチは、パレイラ監督から『まず守備をやれ』と指示を受けている。さらにブラジルはサイドバックも積極的にオーバーラップするから、いつも守備で忙しいんだよ」

 ゼ・ロベルトは、ペンをとってノートに布陣を書いて説明してくれた。前の4人は前へ攻め、サイドバックも前へ上がる。だからセンターバックの2人と、ボランチの2人は残って守備をしなければいけない、というのがパレイラの決まりごとだ。エメルソンがやや下がり目で、ゼ・ロベルトがやや前目に位置するが、最優先すべきは守備であることは変わらない。

(以下、Number643号へ)

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