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オシム采配への疑問。 

text by

山内雄司

山内雄司Yuji Yamauchi

PROFILE

posted2007/06/28 23:43

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[検証・キリンカップ]オシム采配への疑問。

山内雄司=文

text by Yuji Yamauchi

 「なぜだ?」

 コロンビア代表と戦いながら、稲本潤一はそう自問し続けていたかもしれない。オシム監督が就任して初めての招集。不安もあっただろうが、同じくらい期待もしていたはずだ。「やってやろう」「いいところを見せてやろう」との思いがあったに違いない。しかし、与えられたのは1トップの下という未知のポジション。「試合前に言われた。すごく意外だったし、戸惑いはあった」と明かしたように、指揮官の真意をつかみきれないまま、低調なパフォーマンスに終始した。鋭い読みと突っかけによるインターセプトから攻撃へと関与するプレーが持ち味の稲本だが、1トップの高原直泰をフォローしつつ、中村憲剛や中村俊輔の能力を引き出すという難しい役どころは、ぶっつけ本番で何とかなるものでもない。ピッチ中央で汗をかきたかった、オシム監督風に言うならば水を運びたかったというのが、偽らざる本心だろう。

 また、同じく初招集の中田浩二も、こちらは不慣れとは言えないSBでの起用ではあったが、やはりいきなりのオシム流に戸惑いばかりが目立ち、本来の出来からは程遠かった。前半途中で足を痛めたこともあり、稲本同様に焦燥の45分間を終えている。

 高原をトップに、後方に中村俊、稲本、遠藤保仁を並べた攻撃ユニットは、力量という点では非常に魅力的だ。しかし、互いの特長は理解しているとはいえ、試合直前に布陣を聞かされた選手たちは、どこでボールを奪い、どこでパスをもらうかといった意思統一もままならないうちに試合をこなすことになった。オシム監督は試合後、「リスクの高い構成。カミカゼ・システム」と語り、無理を承知のテスト布陣であることを強調した。そこからは指揮官自身も端からコロンビアという難敵を相手に通用するとは考えていなかったことがうかがえる。

 かくして前半は、人もボールも動くサッカーからは程遠く、個々のアイデアによって稀にダイレクトプレーが生まれるものの、全体としてはぶつ切れ感が強かった。そして、稲本、中田はその大きな要因という印象を残してピッチを後にすることになった。

 オシム監督は会見の終盤で、こうも語った。

 「巧い選手でも走らなければいけない。走らないぶんの借金は監督が払わなければいけない。フィジカルコンディション的に全員が準備できていたわけではない。誰とは言わないが、準備ができていない選手がいた」

 その通りである。その通りであるが、この発言には首を傾げずにいられなかった。

 コロンビア戦の4日前、モンテネグロ代表との試合後に、オシム監督は「個人が目立とうとするプレーが多い。才能はチームのために使わなければいけない」と苦言を呈していた。これは日頃から彼が選手に求めていることだ。中村俊の欠場に関しても、「私も出て欲しいが、100%の準備ができていなければ皆に良くない。フルに戦える選手が基本」と語り、あくまでもチームありきの姿勢を確認している。

 となると、どうにもコロンビア戦は合点がいかない。矛盾と言ってもいい。

 稲本、中田のコンディションが万全でないことは、オシム監督も理解していたはずだ。100%の準備ができていないと知ったうえで、コロンビア戦での起用に踏み切ったことは明白である。特に稲本は不慣れなポジションだ。持ち味を発揮できないことは想定済みだった。つまり「カミカゼ・システム」では神風は吹かないよ、と言いたかったがための前半だったのではないか。

 旧ユーゴスラビア代表を率いて戦った1990年のイタリア・ワールドカップ初戦の西ドイツ戦、オシム監督はメディアやファンが求める布陣を、うまく機能しないことを承知で敢えて採用し、敗戦をもってその愚を知らしめたとされる。今回のコロンビア戦の前半をその再現とする見方もできる。確かにオシム監督は試合後の会見も含めて、多くのメッセージを送ることに成功した。

 「走らない選手は使えない」「海外組であろうと容赦はしない」「ほれ、名前だけでは機能しないだろう」と。

(以下、Number681号へ)

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