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鄭大世はどこから来てどこへ往くのか。 

text by

吉崎エイジーニョ

吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2008/05/05 17:21

鄭大世はどこから来てどこへ往くのか。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 Jの舞台で。代表チームで。活躍度が増すほど、ミステリアスになっていくのが鄭大世(チョン・テセ)という男なのだ。川崎フロンターレに所属する在日コリアン3世。ポジションはFWで、24歳だ。

 昨年、突如Jのピッチでブレイクした。リーグ戦、カップ戦合わせて14ゴール。そこまで、まったくの無名選手だった。いったいどこから来たんだ?― 

 2月の東アジア選手権では、岡田ジャパンの対戦相手にいた。この男、北朝鮮代表なのだ。中央突破から、華麗なシュートまで決めやがった。なんで敵にいるんだよ!― それも北なんだ?― 韓国メディアでは「韓国国籍を持つ」とも報じられた。ちなみに大会では韓国戦でもドローに持ち込む貴重な1ゴール。計2ゴールをあげ、得点王になった。

 で、プレーぶりを観ているとすぐに気づく。

 スタイルは、コリアンというより、アフリカン。強烈なフィジカルを活かし、アジア人離れしたプレーをする。肌も地黒だし。少なくとも「北朝鮮」のキャラじゃない。

 となると、最後にはこういう話になるのだ。

 日本代表に欲しかったんじゃないの?― ああいうタイプ。

 ……それは言いっこなしか。

 近くで観察していると、ますますミステリーは深まる。3月26日、岡田ジャパンが先のバーレーン戦に臨んだ日、テセは北朝鮮代表の一員として、韓国戦に臨んだ。

 試合後、大勢の韓国メディアの前で言い切った。日本の朝鮮学校仕込みの朝鮮語だった。

 「平和と祖国統一のため、そして在日の後輩のために頑張っていきたいと考えています」

 直後、スコアレスで終わった試合の感想を日本語で聞いた。

 「いやぁ、イライラしましたよ。見ました? 自分たち、下手だから……ドカウンターのサッカーでね」

 日本語のほうが楽、とさらりと言い、ずばっと本音を話した。

 翌日の韓国紙には、試合直前のテセの写真がデカデカと掲載された。朝鮮民主主義人民共和国国歌斉唱時に、あふれ出た涙。それが頬を伝っていた。国歌を聞くと「自然に涙が出る」のだという。

 これはナゾを解かねばと、川崎の麻生グラウンドにテセを訪ねた。直接ずばりと切り込む。キミはいったい何者なのか?― と。

──なんでまた、北朝鮮代表を選んだのですか?

 「おれにとっては当然のことなんです。朝鮮を慕っていますから。そういう教育を受けてきましたから」

──じゃあ、いま日本で、常に自分は外国人だと思って暮らしているの?

 「それは……こういう環境なので時々忘れることもありますよ。じゃないと日本人の中でやっていけないと思うし」

──それはどんな感覚?

 「うーん、ただ、おれ、常に在日としての意識は持ってますけど、特に自分がダメな時に『国』が見えてきますね。例えばポジション争いで苦しい立場に置かれたとき。自分は在日の代表だ。国の戦いだぜ、って」

【次ページ】 プロを目指した朝鮮大時代。しかし、くすぶる日々が続く。

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