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ボビー・バレンタイン トータルベースボールという選択。 

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阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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posted2005/11/10 00:00

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[指揮官は語る]ボビー・バレンタイン トータルベースボールという選択。

阿部珠樹=文

text by Tamaki Abe

 「誰かに頼るのではなく、全員が信頼しあって戦う。これがウチのチームであり、チームスポーツというものなんだ」

 ホークスを破って、31年ぶりのリーグ優勝を決めたあと、ボビー・バレンタインは自分たちのスタイルをそう要約した。おそらく、シーズン中も何度も選手たちにいい聞かせたことに違いない。

 全員で戦う。全員野球。そうレッテルを貼ってしまうと、これまでの優勝チームとどこに違いがあるのか、見えにくくなる。勝ったチームは、たいてい、全員の勝利といいたがるものだ。しかし、マリーンズの場合は、「全員で戦う」ことは、単なるスローガンではなく、チーム事情から来る要請だった。それは、リーグ優勝を争ったホークスと比較してみるとはっきりする。

 ホークスは「中心と周縁」、「主役と脇役」がはっきりしたチームだった。打線の主役は2冠王の松中、それにズレータ、城島、バティスタ、カブレラ、川崎などがつづく。投手の主役は最多勝、防御率1位の2冠を獲った杉内とシーズン15連勝の斉藤和巳。それに新垣、和田、リリーフ陣がつづく。強力な中心選手を前面に押し立てて、レギュラーシーズンを戦い、プレーオフに臨んでいた。

 それに対して、マリーンズは中心がはっきりしないチームだった。投手陣には10勝以上の勝ち星をあげた選手が6人もいる。しかし、その中で誰がエースかと問われると、答えに窮する。勝ち頭の渡辺俊介は個性的なサブマリンだが、カリスマティックなリーダーシップは持ち合わせていない。去年までなら清水直行がエースだったが、今年は二桁勝ったものの、負けのほうが上回り、エースとは呼びにくい。

 打線にしても同様だ。チーム本塁打王の李はクリーンアップにはほとんど入らず、対戦投手によっては先発を外れることもあった。最高打率の今江も、6番から8番が定位置である。3番の多かった福浦は好打者だが、本塁打が期待しづらい選手である。

 こうして見てくると、マリーンズには中心、主役と呼べる選手がいないことがわかる。チームをクルマにたとえれば、ホークスに比べて、排気量でかなり落ちる。だが、バレンタインは、そのことを逆手に取った。中心のないチームに無理やり中心を作るのではなく、意図して中心のない構造を押し出した。プレーオフの前、話を聞いたとき、そうした構造について訊ねてみた。

 20勝投手も40本塁打打者もいないが、10勝投手は6人、3割打者も6人。これは特定の選手に頼らず、責任を分担させる狙いが生んだ結果ではないのか。

 「そのとおり。どの選手も、自分が一番重要な選手だという意識を持ってプレーしなければならない。ひとりの特別な選手がなんとかしてくれるだろうと当てにするのではなく、全員が自分は勝者になれるのだと信じ込まなければ勝てないからね」

 全員が勝者になれると信じ込む。そのことは、プレーオフの最終戦にはっきり現れた。逆転のきっかけになる内野安打を放ったのは、今シーズン限りで引退する初芝である。小坂が戦列を離れ、堀が負傷し、もう控えの内野手は初芝しか残っていなかった。その最後の一枚、プレーオフではそれまでほとんど出番のなかった男が、速くない脚を懸命に動かしながら一塁へ走りこんでチャンスを作った。かつて「中心」だったこともある初芝が、傍から見れば、「周縁」に追いやられていてもなお、「自分は勝者になれる」と奮闘する。バレンタインのめざしたチーム構造が、最後の場面でもなお強度を保っていた。

 「初芝が内野安打で出塁したとき、この試合はわれわれが勝つようになっていると確信した」

 バレンタインの言葉は、あと知恵とばかりもいえないだろう。

ベースボールにマジックは存在しない。

 レギュラーシーズン中、120以上のラインアップを組み、プレーオフでも日替わりメニューの多かったバレンタインの選手起用を、しかし「マジック」などと称するのは安易過ぎる。本人も否定しているし、「中心のないチーム」という構造から考えれば、日替わりは当然なのだ。だが、日替わりオーダーを、戦力の不足からくるネガティブな策とだけ見るのも間違っているだろう。

 「日替わりのラインアップを組んだのは、チームとして戦うという意識を植え付けるほかに、自信を持たせたいという狙いもあった。打線のどの部分からでも点が取れるようなチームにしたい。そのためには、選手が自信を持ってくれないと。打順などには関係なく、自分も得点に貢献する力のある選手だという自信を植え付けようとした」

 そうやって生まれた自信が、レギュラーシーズンだけでなく、プレーオフを戦い抜く力になる。バレンタインはそう信じていた。

(以下、Number640号へ)

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